
14/07/26
大学時代友達だった奴が体験した話。
そいつ(仮名N)とはオカルトサークルの飲み会で出会って意気投合した。怖い話が好き程度の俺と違い、Nはホラー映画や小説にも詳しく、話を聞いてるだけで楽しかった。
結局俺はそのサークルには入らなかったが、Nとの付き合いはその後も続いた。Nは入り浸ってるネットの怪談投稿掲示板を教えてくれて、俺もよく観るようになった。
Nも時々投稿しているらしかったが、どれかは教えてくれなかった。俺は主に見るだけだったが、一度思い切って怪談を投稿したことがある。
わりと好評だったから嬉しくて、Nにあれは俺だと明かしたら「話運びがたどたどしい」「描写が甘い」と散々ダメ出し食らってうんざりしてしまい、二度と書かなかった。
Nは他人の投稿を厳しく批判するのが常だった。もちろんそれは並々ならぬ読書経験に裏打ちされていて、はたから見てももっともなことが多かった。
Nに同意する書き込みもあり、特におかしいとは思わなかった。やがて最初の夏休みになって俺は九州の田舎にひと月ほど帰省した。
その間Nとはたまにメールしていて、掲示板もよく見てた。お盆を過ぎた頃、掲示板に変化が表れた。
投稿に対して驚くほど敵意むき出しのレス(レスポンス。返事、反応)がつき始めたんだ。主旨はまあ妥当かなと思ったんだが、とにかくきつくて。これまさかN?とメールで聞いたがそれは否定された。
しかしその日以来、誰かの過激な批判レスは続いた。初めは反発もあったんだけど逆に支持する奴も出てきて、一週間もすると一つの投稿に対して複数の過激な批判レスがつくのが常態化しだした。
俺はこのままじゃマズいと思いNにメールしたが、あいつはどうも反応が鈍かった。自分でも色々と書き込んでみたが流れを変えられず、掲示板の雰囲気は殺伐としたものになっていった。
休みが終わり、大学で久しぶりにNと再会した。俺は自分から掲示板のことを持ち出し、このままじゃヤバいと言った。
しかしNはこれで良いと言った。批判によって投稿のレベルが上がり、よりよい掲示板になると。
投稿が減ってきているとも訴えたが、転換期だから仕方がない。いいものが残ればいいと言うだけ。
俺は愕然とした。内心の疑惑がはっきり形になった。過激な批判を始めたのはNだったんだ。
そう悟って以来、Nと会うことが少なくなった。掲示板は投稿ががくんと減り、たまにあったかと思えば待ち構えていたように批判レスがバンバンつくといったあり様だった。
この頃になると内容がただの誹謗中傷だったり、何でも当てはまるようなあいまいな文言だったりするものも多く、いわゆる荒れた状態だった。
俺は楽しい遊び場をNに奪われたようで腹立たしかった。
疎遠になったまま秋が深まり、大学祭が近づいてきた。スタッフだった俺は忙しく動き回っていた。
ある日の夜、チラシを作るためにPCルームへ行った。入室して見渡すとまばらにいた人の中にNがいた。
何やら一心不乱にキーボードを打ち込んでいる。横顔がひきつっていた。俺はわざと後方からそっと近づいていきNのPCの画面を覗いた。
掲示板に書き込んでいる最中だった。バカだの死ねだのといった単語やwの連なりが見えた。俺は背筋が寒くなり、そのまま退室した。
大学祭も終わり寒くなり始めた頃、Nを見かけなくなった。週2、3コマ被ってる講義にも来なくなった。共通の知り合いに聞いても、最近連絡を取っていないとのこと。
少し気にはなったがメールはしなかった。掲示板も見なくなっていた。
そのまま年が明け、後期試験も終わり春休みが始まるという2月初め。Nからメールがきた。会ってくれないかという。
今さらなんだと思ったが、メールを返さないでいると電話までかかってきた。よくわからないが、とにかくせっぱ詰まった様子だけは伝わってきて、承知してしまった。
翌日大学近くの喫茶店で会った。およそ2ヶ月ぶりに見るNはげっそりやつれていてしょぼくれてザ・不健康て感じだった。開口一番、Nは言った。
「変な夢見るんだ」
「はあ?」
「出てくるんだよ。山なんだ。ずっと道が続いて。それで俺、今にも」
「ちょっとちょっと!意味がわからんて。一体どうしたんだよ。ちゃんと説明してくれ」
俺が言うとNはおもむろに水をガブリと飲んだ。そしてしばし俺を見つめて、さっきとは打って変わってささやくような声できいた。
「お前まだ掲示板観てるか?」
「いいや、もう長いこと観てない」
「観てくれないか」
「……別にいいけど」
久しぶりの掲示板は相変わらず荒れていて、見るも無惨だった。
「開いたよ?」
「しばらくログをさかのぼってみて。12月なかばくらいまで」
誹謗中傷や下らない下ネタが視界を流れていく。やがて12月に入った。
「来たぞ」
「そこに話があると思うんだ」
「何て話?」
「山でドライブしてたらとかいう出だしの……」
「ちょっと待ってね……ああ、あった」
「それ読んでみて」
以下その話。
…
夏に友人たちとドライブしていたとき起こった話。
行ったことのない他県の山の中を当てもなく走っていた。緑が鮮やかで風が心地よかった。野郎ばかりなのに歌まで歌い出したりして。
同じような曲がりくねった道を行くこと数十分。あるカーブを曲がったとき一人が声をあげた。
「あ、何あれ!」
少し先に待避所みたいなスペースがあって、そこに妙なものがあった。
「ガラス張りの……部屋?」
「やけに細長いけど」
「行って見ようぜ」
俺たちは待避所に車を入れて降りた。それに近づく。
「床屋?」
俺はつぶやいた。透明な外壁の全長10メートルほどの部屋の中に理容椅子と思しきものが4脚ほど並んでいる。人の姿は見えない。向かって左端に手押しのドアがあった。
「へー、これすげえじゃん」
お調子者の一人が駆け寄って行った。俺たちもぞろぞろついていく。
ドアはあっさり開いた。中にはレジカウンターやロッカー、シャンプー台などがあり明らかに理髪店のようだった。空調が作動してる様子はなかったが不思議と暑くはなかった。
「ちょうどいいじゃん。みんな座れよ」
お調子者が言うなり一番手前の椅子に座ってみせた。誰もいないし俺らも座ってみた。正面に車の通らない車道が見える。セミの声。小鳥のさえずり。しばしボーっとしていた。
「はっ」
不意に目が覚めた。いつ眠ってしまったのか。思わず椅子から立ち上がった。外はまだ明るい。他の連中はまだ寝ている。
「おい……おい!」
起こすと皆ぼんやりとして周りをキョロキョロしながら立ち上がった。
「何で寝たんだろ」
「何か気持ちいいんだよな。さすが床屋の椅子だけある」
俺らは外へ出た。むわっっと熱気が肌をなでてくる。
「結局何なんだろうな」
車に戻りハンドルを握ると助手席に座りながらきいてきた。
「期間限定とかじゃね。で昼休みに買い出しに行ったとか?」
後ろで寝そべったお調子者が言う。それぞれ勝手なことを言いつつ、その後はファミレスでだべって、TSUTAYAに寄って、夜10時頃、俺は家に向かって一人車を走らせていた。
ふとルームミラーで何かが動くのが見えた。後部座席に誰かいる?俺は思わず路肩に寄せて後ろを確認した。何もいない。
「びびらせんなよ~」
わざとらしくひとり言を言いながら帰宅した。
…
「読んだけど」
「その後のレスも観てくれ」
ログをスクロールしていく。例によって批判というより中傷に近いレスが続いている。曰わく「オチがしょぼ過ぎ」「地名ちゃんと書け」「セリフが不自然」「カス」「死ね」etc.
Nのものらしき長文の批判もある。不必要な煽りや罵倒を除いて要約すると「山の中にガラス張りの床屋なんてある訳ない。リアリティがない」という感じ。
「この長文お前だろ?」
「その後も読んで」
「後もっていつまで……」
言いながらログを追っていくと画像が貼ってあった。文章はなし。クリックする。雑草だらけの中に透明な部屋があった。理容椅子が2脚ばかり並んでいる。
「あ、床屋の画像があるじゃん」
「それだよ」
「語り手が証明のために貼ったってこと?」
「わかんないけど、それで俺、謝れば良かったんだけど」
Nらしくない弱気なセリフに少し驚いた。
掲示板に目を戻す。画像に対して不気味がるレスがいくつかついていたが、その後にまた長文でおとしめるレスがあった。Nだろう。
今度はほぼ中身のない悪口だった。明らかに引くに引けなくなり、ムキになっているぽかった。しかしそれ以降は広がらず、また別の投稿がなされそれに対する口撃にシフトしていた。
「一通り読んだけど」
「その時はすぐ忘れたんだ。でも先週になって突然夢に見るようになって」
「さっきの山道の夢って、この話に出た山道ってこと?」
「多分そうなんじゃないかと思う。車に乗って走ってるんだ」
「お前が運転してんの?」
「その辺がはっきりしないけど多分違う。後ろに乗ってるっぽい」
「他に誰か乗ってんの?」
「うん。そんな気配がする」
「それ投稿者ってこと?」
「そんなん知るかよ。で、ずっと緑の山の中を走ってるんだ。」
「カーブばっかり?」
「そうそう。同じような感じの連続なんだけど……」
「だけど?」
「わかるんだよ。近づいてるのが」
「ガラス張りの部屋に?」
「ああ。もうすぐ……ここ曲がったらあれが姿を現すんじゃないかって。そしたらたまらなくなって車から飛び降りたくなって。でも体は動かなくて。つかまれてる感じもあって」
「何日も観てるのか?」
「毎日じゃないけどもう5回くらい観た」
Nは小刻みに震えているようだった。見開いた目が血走っている。
「徹夜したのか」
「今夜辺り着いちゃうんじゃないかと思ったら眠れなくて」
「呪いとか?とりあえず謝った方がいんじゃね」
「謝罪レスはした。でももう手遅れっぽくて。その後も止まらないし」
その後もNはおのれの恐怖を切々と語っていたが、俺にはとんと実感はなかった。Nが今夜一緒にいたがる感じなのを振り切って別れた。
正直信じてなかったし、俺に会いたくてでっち上げたんじゃないかとすら疑っていた。それでも帰宅してシャワーを浴びてさっぱりしてみると、ちょっと気分が変わって少し真剣に考えてみようかと思えてきた。
例の話をもう一度読み直してみる。
確かに後部座席で動く影を観ただけなんてしょぼすぎるオチだ。しかし……。何度か読み返していると何やら違和感がある。どこかおかしい。
気付いた時思わず声が出た。
話の登場人物がどうやら終盤で1人減っているのだ。断言は出来ないが、そう取れるような描写がなされている。最後のくだりもこのことを暗示していたのでは……。
これが本当のオチだったのか。Nも他の誰も気付かなかった。だから……?
考えがまとまらないままとにかくNにメールして伝えた。Nからはすぐ返信がきて、すぐ掲示板に書き込んで欲しいと言ってきた。
お前がやれと返したら、怖くて無理との返事。正直面倒だったが乗り掛かった船だからと書き込んでやった。ロムってたらしくすぐ御礼メールがきた。
それからNは例の夢を観ないようになり元気を取り戻したようだったが、結局疎遠になり2年に上がってからは講義も被らず没交渉になってしまった。
コメント
コメント一覧
どこを読んだらそうなるんだ…
こういうのはたいてい「わかりやすくて、過激で、理不尽な落ち」を期待してる人が多いのであれかな。
雰囲気はいい感じなので、もうちょっと二転三転して本物っぽい情報をプラスして、過激な落ちなら受けはよかったかもしれない。
Nさんチッス
「最初に来た人数と変わらずだった。めでたしめでたし」
ってな事?
他の人間(俺)がオチに気付いてそれを投稿者に伝えたらNもろとも許されたってこと?
全然わからん…とんでもないことが結局何のことなのかもわかんない
まさか「パラノーマルちゃんねる」の※欄にコメント書き込んでる自分等が出てくる話があるとは…
※2
見つけた時に椅子4脚あり、"ちょうどいい"からみんな座ろうぜ→4人いる
うたた寝から目覚めて車に乗った時→
運転手と助手席=前は2人
"後部座席に寝そべる"お調子者=寝そべれたのだから後部座席には1人
つまり、2+1=3人になった
後部座席に座ってたはずの残りの1人は気配はすれど目には見えないモノと化してしまった
その後スレに貼られた写真には椅子が2脚
Nは夢で後部座席に座ってドライブしてるので、夢の続きで床屋の椅子に座ったら…
で寝る前は4人と推測できる
起きてからは、
お調子者が車の後ろで寝転がった
とあるから、2列シートの一般的な車であれば乗っている人数は3人と推測できる。
(車が3列シートである可能性を否定する文章はたぶんないが)
というオチを書き込んだことで呪いが解けたのだろう。
ただ、投稿された写真に写っているイスは2つ。
これに気づいたので私はここに書き込みしました。
1人ずつを説得するのには70億人は多過ぎますし、全ての人が理解出来る訳も有りません
自分で気が付かせる事・・私は其れを目指しています
さて、もうお解りかと思いますが、不毛で時間のロスでしかない言い争いを好んでする理由とは?
ブザマでしかありません
2だけど、解説ありがとう。そういう意味かー。
ただ、写真の方は理容イスが全部写ってないだけだと思って、読み流してた。
実害もげっそりやつれたってだけ?
なにそれw
床屋の投稿者の話くらいしか面白いところないじゃんw
こいつの体験で面白い、もしくは怖いってところが何一つ無い
やっぱり投稿しないで引退してればよかったね
センスなさすぎて怖いwwww
仮に4人乗っていたら、後ろで寝そべれないよね。
実験的だけど
掲示板はホ○ー○ラーかな?
疑う書き込みをした ← まぁわかる
妙なタタリを受けた気がする ← オカルト脳ww
解釈を書いたら平和になった ← 結局誰のタタリ?ガラス張りの部屋の人?過疎ログのヒマ人?
「Nこそが消えた4人目で、どーゆう理由かは定かでないがそれらの記憶を全部無くし、『N』の名前で見知らぬ街で学生として生活してる」
「ところが掲示板の話がきっかけでNは記憶を取り戻しそうになっている」
「…今回は記憶を取り戻すにまでは至らなかったが、仮にNが夢の中で再び理容椅子に座っていたら実は全世界が終わっていた。
この世界はNが見ている夢なのだから」
(自己評価)…ひねりすぎですね。ハルヒみたいです。
話を投稿した時には4→3だったからその続きなら床屋椅子はまだ3あるはず
なのに激しく批判されてから貼られた写真は床屋椅子が2になってた
つまり投稿から写真貼られるまでの間に1人犠牲になってるってこと
「場所が実在すること」ではなくて「床屋椅子とともに人を消すことができること」の証拠写真だった
ちょうどいいじゃん→人数分ある
帰りにお調子者が後部座席で寝転んでて→よにんだったら後部座席で寝転べない、または男同士で膝枕w
言われないと気づかなかったわ
Aみたいな奴なんて腐るほどいるのにアンラッキーだったな
店主不在で休憩するには具合が良い椅子と空間がある
という意味合いだと思ってた
結局ここのコメ欄の人達は何人消えたの?
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