
大学入って上京してすぐの頃、目当てのサークルの新勧コンパ行ったんですよ。
酒とハイテンションも手伝って打ち解けた当時3年の先輩と3次会まで付き合った。趣味も合うし、初めて会った気がしないくらい。
何だかんだで先輩の終電がなくなったからウチに泊まることに。まぁ同性同士だし、引っ越したばっかで盗まれるもんもないし酔ってるしいいかと。
まだ家具もぜんぜんそろってないから床に布団二つひいて並んで寝ることに。
電気消して脈絡のない話をしながらウトウトしてたら先輩が、いきなり舌打ちした。
「どうしたんですか?」
「音が聞こえる」
大学から徒歩10分以内、家賃も安いし若い人が多いっぽい。
「隣の女うるさいですね、壁叩きます?」
「いや、そっちじゃない」
なんのことだろう、と思ってちょっと黙った。低音の音楽が隣の部屋から聞こえる以外は、遠くで車が走る音。
風で外の木がざわざわいって(マンションの庭に数本ある)、あとは二人の呼吸だけ。
「何の音ですか?」
「廊下から聞こえる」
誰か扉を開け閉めした音かな、と思ったけどオレには聞こえなかった。
「あんまり、夜中まで起きてない方がいいよ、ここに住むんだったら」
なんか吐き捨てるように言って、先輩は壁の方向いて寝た。けっこう気になる方なのかな、としか思わずに自分も寝ることに。
とはいえ一回音が気になるとか言われたら無意識に耳すませちゃって寝るどころじゃない。隣の女勘弁してほしいよなぁと思って携帯の時計見たら2時40分くらい。
先輩始発で帰っちゃうかもしれないし、寝るにも起きとくにも中途半端だなぁと思ってたら廊下から音がした。
というより、音がしてる。なんか湿ったものを引きずるようなこもった音。
廊下の方、玄関のドアを見た。魚眼レンズから廊下の明かりが漏れて、そこがチラチラしてた。
誰か歩いてるか、何か物運んでるんだと思った。夜型の人がゴミでも捨てに行くのかなとか。
それが5分ぐらい続いて、さすがにイライラしてきたからそっとドアの方まで行ってレンズ覗いた。横まで覗き込んだら、自分の前の部屋のドアと、両隣で合計3つのドアが見えた。
音は、突き当たり側の左側からする。それがゆっくりと近づいてきた。髪の長い人が左側のドアに近づいて、魚眼レンズを外から覗きこんで、隣へ。
何やってんだろうこの人と思ってたらその人はまた隣へ。全部の部屋を覗いてるらしい。
空き巣には見えないし気持ち悪いなぁと思ってたら、右側に行った音が近づいてきた。たぶんウチの隣の部屋を覗いてる。ウチも覗かれる、と思ってスッと身を引いた。
今思えば別に覗いたまんまでも向こうはこっちが見えるはずないし、こっちも変な物見ちゃうわけないから変なんだけど、なんとなく感覚的に外の人と目合わせたくなくて音がどっか行くのを10秒くらい待った。
音が聞こえないけど、気になるからもう一回覗こうとしたら、後ろから
「何が見えた?」
って先輩が声かけてきた。
ちょっとびっくりしたけど「変な女が歩いてる」って普通に答えた(今思えば性別分からんかったけど)
先輩は起き上がって部屋の電気つけて、部屋の片付けに使ってたガムテープ持ってきて魚眼レンズに貼った。
「気にしない方がいいよ」
とだけ言ってまた布団に転がった。
外歩いてたのが誰かはあれから3ヶ月経っても分からないままだけど、魚眼レンズはもう一度も使ってない。
先輩はたまに授業の合間に遊びにきたりして、お互いに何も言わない。
ただ、たまに読〇新聞の勧誘員が来て開けちゃうからちょっと困る。

コメント
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日曜版の漫画「ねこピッチャー」読みなさいよ。
朝日はとるな!毎日なんか絶対とるな!
読みたかったら図書館で読め。
そんなレンズを日中に覗いたら失明しそうですな
↑
この部分がいいですね。食後のちょっとしたデザートのような口当たりです。
勧誘員さん、勝手にドアを開けちゃうのはいけませんね。困っている書き手さんの顔が見えるようです。
途中から見る気なくした
勧誘員がドアを開けるのではなく、インターフォンがなってもドアスコープを覗けないから、勧誘員とは分からずつい開けてしまうということでは?
器具を使えばドアスコープから家の中を覗くことはできるから、なにかで蓋をしておくのは正解
報告者は引っ越したばかり
霊がいるぞと言ってもどうしようもないから、関わらないように夜更しするなと
童貞がなんの恨みか女叩きするから
面倒事を避けるために隠すんだよ
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