炎

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sage[]投稿日:2010/05/19(水)22:41:39ID:GIe+3Plj0
怖いってよりは不思議な話かもしれんけど、オレ的には怖かったので、ここに書きます。

オレがガキの頃、近所にAと言う幼なじみがいた。学年も同じで、毎朝一緒に学校に行った。Aはなぜか未来のことをよく知ってて、その頃夢中だったマンガとか、アニメとかについて、来週どうなるかを教えてくれた。

なんで知ってるのか気になって、一体どこから聞いてきたんだ、と聞いたらAは「夢で見た」と言っていた。

おそらく予知夢みたいなものだったんだろうけど、その頃のオレはアホだったので「いいなー、オレも夢で見たいなー」としか思ってなかった。

んでお互いに五年生になったとき、Aは死んだ。トラックにひき逃げされて即死だったらしい。Aの葬式は身内だけで行われ、遺体を前に最後のあいさつも出来なかった。

オレはしばらくAがいなくなったことを自覚できなかったけど、Aの妹がさびしそうにしているのを見て、少しずつAの死を認識していった。


936:本当にあった怖い名無し[sage]投稿日:2010/05/19(水)22:42:21ID:GIe+3Plj0
で、最近の話。

先月のゴールデンウィークの時、田舎に帰省した。Aの家の前を歩いてたら、Aのおばさんに会った。

「おひさしぶりです」

「あら、〇〇(オレ)君、すっかり大人になったねー」

なんて軽く立ち話をして、Aに線香でもとA宅にお邪魔した。Aに線香を上げてからまたおばさんと世間話。ふとぱたぱたと歩く音が聞こえてきた。

「〇〇にいちゃん!」

Aの妹だった。


937:本当にあった怖い名無し[sage]投稿日:2010/05/19(水)22:43:01ID:GIe+3Plj0
Aが亡くなってから、オレはAの妹がさびしそうにしているのが見ていられなくなって、毎朝A妹と色んな話をしながら学校に行った。

そのうち自然とオレのことをお兄ちゃんと呼ぶようになってた。そのままA妹と二人で世間話。

「彼氏は出来たか?」とか、「大学はどうだ?」

とか、まぁ色々と。そのうちAの話題になって、ふと聞いてみた。

「ひき逃げ犯は捕まった?」

「あ、うん、大丈夫…」

何か触れちゃいけないことに触れてしまったらしい。それ以上は聞かなかった。


938:本当にあった怖い名無し[sage]投稿日:2010/05/19(水)22:46:14ID:GIe+3Plj0
家に帰って夕食の時、おふくろに聞いてみた。

「Aってトラックにひき逃げされたんだよね?」

「あぁ、A君?そう言ってたんだっけ…」

「そう言ってた、ってどういう意味?」

「確か…、詳しく知らないけど変死とかなんとか」

「変死?脳卒中とか?」

「知らないけど、子供達にショックを与えないためとか、通勤途中の車に気をつけるように、トラックに轢かれたって話になったんじゃなかったかな」

「んじゃひき逃げじゃないのか」

「うん、そうだけど、詳しいことは知らないねぇ」

謎が深まってしまった。


939:本当にあった怖い名無し[sage]投稿日:2010/05/19(水)22:46:59ID:GIe+3Plj0
その夜、Aのことが気になって、卒業アルバムとか文集とかを引っ張り出して、片っぱしから読んでみた。

Aの文章はいたって普通だったが、「同じクラスの人を書いてみよう」ってやつで、Aのことを書いてる文章があった。

「A君は未来を知っててすごい、火事とかも知っててすごい」

みたいなアホな文章だったが、それで思い出した。

オレはAとの通学途中、毎朝のように未来の話を聞いた。オレの動機はいたって自己満で、好きな漫画やアニメの来週の話が知りたくて知りたくてどーしようもなくて、アホみたいに毎日教えてって言ってた。

でも、たまに全く関係ない話をすることがあった。


943:本当にあった怖い名無し[sage]投稿日:2010/05/19(水)23:10:40ID:GIe+3Plj0
ある朝Aが家から出てくると、腕に包帯をしていた。例によってオレはアホな語り口で話しかけた。

「どうしたそれ?」

「昨日の夜火事があって、やけどした」

「え、火事?どこ?痛くない?」

「ガッコー行く道の途中に茶色い犬いるじゃん?あそこんち」

「マジで?見に行くぞ!!」

「おう!!」

っつって、二人でその家に駆けてったんだけど、家は火事にはなっていなかった。茶色い雑種の中型犬が、いつもと変わらずオレ達に向かって吠えるだけだった。

「何だよ-、嘘かよー」

「いや、嘘じゃないもん、ホントに見たし」

その何日かあと、その家は全焼した。


944:本当にあった怖い名無し[sage]投稿日:2010/05/19(水)23:11:24ID:GIe+3Plj0
ちなみにその火事で人とか死んでなかったと思う。ケガがなくて何よりみたいな話を聞いたし。あとから新しい家が建って、あの犬も戻ってきてたと思う。

んでまー、その件でオレとAは「Aが夢で未来を見てる」っていう結論に達した。

その頃「1999年7月にノストラダムスの大王が~」みたいな、世界の終わりがやってくるぞー的な話がはやってて、オレはAに

「1999年7月に地球がどうなってくるか見てきて」

と言った。何日かしてAはオレに言った。

「何にもなってなかった」

「何だよ、つまんねー」

「でもすごいゲーム機とか見たぞ」

「え、マジ?教えてよ!!」

ってことで、やはり予知夢を自己満にしか使えなかったアホなオレ達だった。


945:本当にあった怖い名無し[sage]投稿日:2010/05/19(水)23:12:06ID:GIe+3Plj0
Aはその後、どんどん未来のことを、と言うか、未来のゲーム機について教えてくれるようになった。今で言うWiiとか任天堂DSみたいな話も聞いた。最後の方は、

「でかいテレビで恐竜とか飛行機がテレビから飛び出してきた」

みたいなこと言ってたから、3Dのゲームなのかな。今よりもっと未来を見てたのかもしれん。で、それから程なくしてAは亡くなった。


946:本当にあった怖い名無し[sage]投稿日:2010/05/19(水)23:12:56ID:GIe+3Plj0
文集を持ったまま色々思い出してるうちに、やはり死因がどうしても気になって、A妹に電話した。

「明日ヒマか?」

「昼間なら大丈夫だけど」

「んじゃ兄貴だからメシでもおごってやろう」

と言って半ば強引にA妹と約束を取り付けた。翌日、A妹と郊外のアウトレットに行き、メシを食って、午後3時前にはそこを出た。

帰りの車の中で、A妹とAの思い出話をする。どう切り出すか迷ったが、A妹がAの予知夢の話をしたので、ここぞと思い、こう切り出した。

「予知夢が見られるなら、トラックの件も先に気づければよかったんだけどな…」


947:本当にあった怖い名無し[sage]投稿日:2010/05/19(水)23:14:40ID:GIe+3Plj0

「うん…、あのね」

「うん?」

「これ本当は言っちゃいけないって言うか、言うなって言われてるし、あまり話したくないんだけど」

「うん」

「お兄ちゃん(Aのことね)、トラックじゃないの」

「…どういうこと?」

少し間をおいて、A妹は話し始めた。

「あの日のことだけど…」

「お兄ちゃんと私は一緒の部屋に寝てたんだけど、朝起きたらお兄ちゃんはまだ寝てて、私は一人で居間に行ったの」

「ちょっとしたら突然子供部屋から、お兄ちゃんの叫び声が聞こえて、ぎゃーーって」

「お母さんが慌てて子供部屋に行ったら、お母さんも悲鳴あげちゃって」

「びっくりして私も部屋に行ったんだけど、、、そしたらお兄ちゃんが…」

オレは黙ってA妹の次の言葉を待っていた。


949:本当にあった怖い名無し[sage]投稿日:2010/05/19(水)23:16:59ID:GIe+3Plj0

「…焼けて、死んでた…」

「焼けて?」

「黒こげって言うか、真っ黒って言うか…」

A妹の手が震えてた。
オレも少し震えてた。

「私が子供部屋を出て、ほんのちょっとの間に、そうなって…」

オレは正直言葉を無くしてしまって、ただうなずくことしか出来なかった。

「ごめんなさい、変な話しで…」

「いや、いいよ、オレもAの最後のこと、知りたかったから」

オレはその時、頭の中でぐるぐる色々と考えてて、もしかして人体発火現象ってやつか?と思い、さらに一つだけ聞いた。

「ごめん、一つだけ聞きたい。人体発火現象って知ってるか?」

「うん、前に調べたことあるけど、あれじゃない」

「まるで炭のようになったって後から聞いた」

ほんのちょっとの間で炭に??そんなことあるのだろうか。どういうことだろう…。オレとA妹は、そのまま言葉を交わすこともなく車を走らせ、「またね」のあいさつで別れた。

で、もんもんとして今にいたる。

ここからはオレの予想でしかないんだけど、Aは「予知夢で見た火事」で「やけど」を負っていたから、もしかしたら「予知夢」ですごい火力に遭遇したとか…。

でも、人体が瞬間的に炭になるようなことってあるんだろうか。オレにはわからんけど。Aは最後に何を見たのかなぁ。