部屋

高校生の時、親元を離れ家賃2万の風呂無しアパートを借りて住んでいた。

その部屋にはなぜか黒いソファーが備え付けてあった。

6畳の部屋には似合わない本皮のどっしりとした大きなソファーで、大家のおじいさんが言うには、前の前の前くらいの住人が「いらないので」と置いていったとのこと。

住人が引っ越す度に「持って行けよ」と言うのだが「いや、いらないです」と断られるらしい。

それを聞いた自分は「うわあ!オカルト話でよくあるやつ!」なんて思ったが、貧乏でテーブルしか持っていなかったので、ありがたくベッド代わりに使わせてもらうことにした。

ソファーは左側の壁にピタリと寄せて置いてあり、動かそうにも一人ではビクともしなかった。

住み始めて数日たった夜、ソファーで寝ていると突然背中に痛みを感じた。チクチクと爪楊枝で刺されてるような嫌な痛み。

何か虫?と思いながら体を起こし電気をつけてソファーやTシャツを確認してみたが何も見当たらず、そのうち痛みもなくなった。

その日から不思議なことが起こるようになった。

背中のチクチクに加え、金縛り、うめき声、モヤモヤとした黒い影が部屋に入ってくる、誰かが背中に顔をベタリと付けてくる、包丁で刺される夢を見る…。全てソファーで寝ている時に起こる。

「やっぱりこのソファー…」と思い、引越しを考えたがそんな金があるわけもなく、仕方なくソファーにシーツをかけ、なるべくソファーに近づかないように生活をしていた。

ある朝、便所に行こうと廊下へ出ると大家さんと大家さんの孫と出くわした。

「あ、おはようございます。あれ?どうしたんですか?」

「いやあ、隣のAさんから急に電話が着て、もうアパートに戻らないから片付けてくれだってよ」

自分はそれを聞いて思わずガッツポーズをしそうになった。なぜならこの隣のAさん、かなりアレな人だったからだ。

40歳~50歳くらいの太ったメガネのおばさんで、もう10年以上住んでいるらしいんだけど、あいさつも無し、少し物音をたてただけで壁をドン!、ドアに

「うるさい!」「そうじ!」

と書かれた張り紙をしてくるなどひどかった。一番鮮明に覚えているのが、廊下でAさんが突然ひっくり返った。偶然近くにいた自分が

「大丈夫ですか?!」

と駆け寄り、手を差し伸べるとバチーンとすごい勢いで弾かれた。

「なんだコイツ」

と思いながらも見守っていると、近くにコンビニの袋が落ちているのに気付いた。何の気なしに拾ってみるとエ〇漫画とコン〇ームが入っていた。

それをまた凄い勢いでAさんは奪い取るとドシドシと部屋に戻っていった。そんな人だったので「引っ越してくれてありがとう!」と心から感謝していた。

鼻歌交りに部屋に戻りダラダラしていると、隣が何やら騒がしい。何かあったのかな?なんて思っていると、

「B君(俺)!ちょっと来て!」

と大家さんの孫が呼ぶ声が聞こえた。

「どうしたんですか?」

と隣の部屋に行くと、大家さんの孫が血相を変えてどこかを指差している。パッと指差した方を見てめちゃくちゃビックリした。

壁に釘が何十本もぶっ刺してあった。ぼうぜんと見ていると大家さんが

「よく見てみろ。色々書いてある」

と言うので近寄って見てみると、釘のぶっ刺してあるところを中心に壁にバーっと細かい字と汚い絵がたくさん書いてあった。絵は小学生が描いたような女と男の裸の絵で、上から爪か何かで引っ掻いた跡があった。

細かい字の方はもう「死」とか「呪」とか「殺」とか…いかにもな字が並んでいた。

「〇〇死ね」というがたくさんあって、もちろん俺の名前もあったのだが大家さんが言うには「B君の前の住人たちの名前があるな」と言っていた。

それを見て何となく気付いた。この壁の向こうってちょうどソファーがあるあたりだ。あの現象ってソファーが原因だったんじゃなくて、これが原因だったんじゃないかって。

恐らく前の住人たちはこの事実を知らずに、ソファーに原因があると思って置いていったんだろうなあと思うと何とも言えない気持ちになった。

Aさんがアパートを出て行ってから、しばらくぶりにソファーで寝てみたが何も起こらなかった。やっぱりあれが原因だったのかと確信した。

ちなみに大学を出るまで住んで、アパートを出るときに大家さんに

「ソファー持ってくか?」

と聞かれたけど

「いや、いらないです」

って断った。でかいんだもん。