彼岸花

なんつーかこう、ヒドい車酔いした時みたいな気分になった話だけどいいかな。モヤモヤして気持ち悪いから聞いて欲しい。

ほっとんど会った覚えのないばあちゃんが亡くなったから葬式に出る事になった。母親のほうのばあちゃんで、記憶にあるのは猫を抱っこしてニコニコしてたことくらい。

で、葬式会場に行こうとしたら会場じゃなくて、ばあちゃんの実家に行く事になった。やっぱり田舎だからか古いけど立派な家で、庭に鯉がいる池があるのを初めてみた。

玄関開けてごあいさつ、と思ったらもうね、すぐに「うわぁ」ってなったんだわ。母親はハンカチ取り出して、俺はがまんしながら家の人を呼んであがらせてもらった。

ぶっちゃけすぐに出て行きたかったけど、失礼な気がして外の空気も吸えなかった。とにかく臭い。いや臭いとかいうレベルじゃない。あんな臭い嗅いだ事なかった。

このときに「まさか…」とは思ったけど、まさにそのとおりだった。

ざっくり聞いた話だと、ばあちゃんは長女で分家扱いなんだけど、ばあちゃんの両親は本家の人。でも葬式するのは、本家の家。この辺はわけわからないけど、なんかあったんだと思う。

親族に軽く会釈しながら、母親と一緒に最後の別れを言いに行こうと遺体を拝みにいった。けどね、やっぱり臭いんだわ。さすがにごまかせなくて、何度か嗚咽した。

母親も泣くフリでハンカチ使ってたけど、何度かやばそうだった。で、遺体がある部屋に通してもらったら案の定、原因がソレだった。

ばあちゃんの遺体がとにかく臭い。けど、入ってすぐに思ったのはそこじゃなかった。

顔にかける布が「真っ黒」だったこと。よくみると布の端に金色の糸で刺繍があって、それが刺繍の裏面だってのがわかった。

母親が吐き気か悲しいのかわからないけど、涙ぐみながら布団のそばに座った。俺もその隣に座ってしばらく黙ってたけど、がまんできなくて聞いてみた。

「この布はなんで白じゃないの?」

母親は「知らない」ってそっけなく返したけど、やっぱり悲しいみたいで声が震えてた。

臭いもキッツイし、二人きりにしてあげようと思って部屋を出た。というかタバコ吸いたかった。ほんと臭いも布もキツかった。

のんびりタバコ吸ってたら、いつの間にか来てた叔父さんも一服しにきてた。世間話をしつつも、どうしてもあの布の事が気になって聞いてみた。

「叔父さん、ばあちゃんに会いました?」

「おーおー会ったでな。えらい小さなってたな」

「なんで顔にかける布が黒いんですか?」

そしたら叔父さんは気まずそうにしながら、まぁいいかって教えてくれた。

「母さん、えらいくさかったやろ?あれな、わざとや」

そういって叔父さんがアゴで蔵のほうを見るようにうながした。蔵のほう見ると何の用かは知らないけど、明かりがついていて、誰かいるみたいだった。

「母さんは分家扱いやろ。だから黒い布なんや。それが家の習わしだそうでな」

分家の人には黒い布、本家の人には白い布をかける。元々は見分けるためとか。

「布に刺繍があったのは?」

「あれはな、母さんの名前と何代目のどの親の子かっていうのが書いてある」

「なんで…そんなことを?」

「化けて出たらわかるようにと出たら対処できるようにって俺は聞いたなぁ」

ごめん気持ち悪くなってきたからはしょると、黒い布に顔のシミができるまで遺体を放置するらしい。だからヒドい臭いだったらしく、その布は蔵の中に保存されるそうだ。ちなみにやるのは分家だけ。

どういう経緯かは知らないけど、そういう呪いみたいな習わしを今でも続けているとのこと。

叔父さんが歴代のあるから見てみるか、っていうから興味本位で見たんだけど、それがもうエグくてな。古いものほど肉染みが濃いんだわ。モノによっては顔の皮とか毛みたいなのもあって、どれも人の顔ってわかる。

葬式なのに遺体が棺桶に入ってないのでおかしいと思った。てか死体そんな放置していいのかよって。

変な風習とは無縁だった分、ウチが変な習わしの家系ってのがまた気持ち悪い。俺も母さんもあの肉染みにされるのかなって思うとキツイ。

話まとまってなくてごめん。