11/07/31
長谷川博一著「殺人者はいかに誕生したか」に載っていた、愛知で起きた小学5年の息子をせっかん死させた母親の事件が後味悪かった。
犯人である母親M子は子供時代父親から虐待を受けていて、それがトラウマになり精神状態がひどく不安定だった。
彼女はパート先で同年代のS子と出会い仲良くなる。彼女は積極的に近づいてきて「私たち親友よね」などとなれなれしく言ってきた。
普通の感覚の人だとけげんに思うところだが、対人関係が苦手で友達のいなかったM子はとても喜び二人は親密になる。
家に招待するとS子は自分の子供を連れて入りびたるようになり、夕飯を食べていくようになる。さらに欲しいものがあると「これくれない?」と言って持って行ってしまう。
M子は夫と不仲で家庭内別居の状態だった、そこへS子は男性の写真を見せて
「この人、あなたが好きだと言っている、ぜひ手作りのお弁当が食べたいって」
と言うと自尊心が低いM子は「私を好きになってくれる人が!」と有頂天になり、毎日昼食の弁当を作ってS子に渡した。さらに
「この人会社の経営が大変みたい」
「身内に不幸があったから香典を」
などと次々に現金を要求してくるようになり、M子は疑うことなく金を払い続けた。もちろん全て嘘で、弁当はS子がしっかり食べていた。
あるときM子の長男(のちの被害者)がS子の子供の面倒を見なかった、というのがきっかけでS子は長男に憎しみを抱くようになり、M子のしつけに介入してくるようになる。
しつけが甘い、もっと厳しくするべきだ、そのうち悪い子になると脅すようなことを言う。
そのうち家の中でトラブルが起こりだした。子供部屋に赤いペンで「みんな殺す、死ね」と書かれる長男の机の上に包丁が置いてある。部屋が水浸しにされる。家の物がなくなり長男の机から見つかるなど。S子はそれを見て
「私の言うとおりにしないから!甘いとますますつけあがる」
と言い放ち、M子はすっかりそれを信じてしまう。しかしそれらの悪事はすべてS子の仕組んだものだった。
息子を精神病院に連れて行き、S子と二人で長男の悪事を並べ立てると長男に「行為障害」の診断が下った。もはや微塵もS子を疑わないM子にますます助言はエスカレートしていき
「一緒にいると家族が危ない、ベランダに出して家には入れるな」
と命令されM子はしたがう。自力で脱出する長男に困りS子に相談すると
「まだまだ甘い、逃げ出さないようにテープで縛るのよ」
と言われ手足を縛り、長男が暴れるとまたS子に相談し全身ぐるぐる巻きにするように言われる。睨んで怖いと相談すると目にも張れと言われ、結局S子の命令に全てしたがった。
そのまま3日放置された長男がついに息絶えると、あわてたM子はS子に電話で伝える
「私に任せろ、うまくやってあげる、私の事は黙っているように」
現場の異様さにすぐに母親のM子は逮捕されるが、彼女は指示された通り誰にもS子の事を話さなかったため、単独犯ということで捜査が進み裁判にかけられた。
だが供述の不自然さや、つじつまの合わないことが多く、裁判は迷走したがカウンセリングや治療を受けたM子が1年近くたってようやくS子の存在と関与を明かした。
そして判決は懲役2年6月の実刑が下り、判決理由の中で『第3者(S子)が主導的な役割を果たした』と認められ、それを受けて警察はS子の取り調べを始めるが、証拠不十分のためS子の起訴にまではいたらなかった。
本に載っていた部分はこれだけで「夫(父親)」は何していた、と思われる人もいるかもしれないので自分で調べたら、当初共犯者として逮捕されたが、犯行に加わってはいなかったとしてすぐに釈放されたらしい。
縛られた長男のテープを取ったこともあったが、M子に激怒されてそれからは見て見ぬふりをしていたという。
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