
14/05/29
うちのばあさんは四国のとある港町で料理屋をやっているんだが、そこで常連としてよく来ていた、水産会社の社長から聞いたという話。
その社長いわく、あるころから会社の事務所に女の幽霊が出るようになった、と言う。
といってもいわゆる貞子とか、あぁいうおどろおどろしい感じではなく、たまに事務所に現れては、はかなげな表情で遠くを見つめてたたずんでいるだけ。それも昼間から。
もちろん幽霊なので見えない人には見えないし、見える人も最初は驚いたものの、誰かを恨んでいる様子でもなくただじっとそこに立っているだけなので、だんだん気にならなくなっていったそうだ。
社長もそのうちの一人で、あまりに普通にいるもんだから、その幽霊に「ケイコさん」と名付け、「今日もケイコさん来てるなあ」という会話が職場で共有されるぐらい、当たり前の存在になっていった。
その会社の事務所は船着き場に併設してあって、海上で作業がある時は事務所の裏手から直接船に乗り込む形になっている。
ケイコさんはそのうち、裏手のコンクリの縁に立って海を眺めていたりとか、出没する場所もちょっとずつ増えていって、しまいには皆が船に乗って出ていく時には、気が付いたら船の甲板に立っていた、なんてこともあったらしい。
それもだんだん当たり前になっていった頃、いつものように社員数名と社長で乗船し出港したところ、甲板の端っこに、またしてもいつのまにかケイコさんが立っていた。
この頃には社長もすっかり慣れてしまっていて、「おーケイコさん今日も来たかー」なんて呑気に話しかけていたそうだけど、ケイコさんは顔色一つ変えず、いつものように遠くを眺めていた。
同乗していた社員もその時は大半が見える人たちだったそうで、いつもの事と特に気にも留めず、作業を続けていた。
ひとしきり作業を続け、そろそろ会社に戻ろうか、という時、社長がふとケイコさんの様子を見ると、相変わらず遠くを見つめてじっと突っ立っていたが、次の瞬間、ふい、と首を傾けて、斜め上の方を見やった。
社長も、それを見ていた他の社員もつられてケイコさんの見た方向を向くと、何と目の前には見上げるばかりの巨大なタンカーがすぐそこまで迫っていて、衝突目前のところまで来ていたそうだ。
なぜ気づかなかったのか、社長も社員も驚くどころの騒ぎではなく、身構えて船のへりにつかまったり、その場に転げ落ちたり、社長は社長で、もう間に合わないがせめて少しでも回避できないかと、大あわてで操舵室に駆け込んだ。
もうぶつかる!という瞬間、ふと視界の端にケイコさんの姿が映った気がして、反射的にそっちの方向に目をやると、さっきまでそこにいたはずのケイコさんがいなくなっていた。
あれっ!?と思ったのもつかの間、ついそこまで来ていたタンカーも、同時にこつ然と消えていた。
一瞬の出来事に全く事態を飲み込めず、一同しばらくぼうぜんとしていたが、その後は特に事故もなく、無事に帰港する事が出来たそうだ。
それからというもの、ケイコさんは事務所にも、船にも現れなくなった。かなり入り組んだ内海なので、あんな巨大なタンカーが航行してくるとは考えられない。
あのタンカーは幻だったのか。ケイコさんはなぜこの事務所や船に現れ、そして突然姿を消したのか。何もかも謎を残したまま、それを確かめるすべもなく今にいたる、とのことだ。
まあこの話をばあさんから聞いたのは小学生か中学生のころなので色々記憶を補完しているところがあるかもしれないが、何のオチもなく、ネタばらしもなく、ただモヤモヤする話で申し訳ない。
ただ何かを待つように、遠くを眺めてたたずむケイコさんの姿を想像すると、何とも言えない不思議な、少し寂しいような気持になる。

コメント
コメント一覧
フェリーとは豪快なお迎えもあったもんだ。
今は和船の技術も廃れてるし、あの世でも作れる人はいないと思うぜ
なのでこの世から多く旅立った客船やタンカーを使うのも時代の流れ
多分タイタニックもその一隻であの世への旅への手伝いしてるのかもね
なんが「マタンゴ」に似たシーンがあったな
死者を地獄に連れて行く火車も御所車型から鬼の牽く人力車になってたなんて話あるから、あの世に旅たつ船も更新されるのかも。
海上自衛隊の掃海艇も木造で造れなくなってFRP船になったし。
閻魔庁では、火車や船の更新も書類作って稟議して最後に閻魔大王が決済のハンコ捺してるんだろうかw
最終決済を十人から貰わなきゃいけないんだからたいへんだw
大丈夫。どうせ後の9人は盲判を押すから早い。
コメントする