
小学生の頃の体験です。
通学路にみんなが怖がるアパートがありました。正式名称は覚えてませんが、神社の隣りにあるので神社アパートと呼ばれてました。
怖いのは登校時間です。私の通ってた小学校は朝だけ班登校でした。ちょうど班の列が出来やすい道に神社アパートはありました。
二週間に一回ほどのペースで神社アパート前は恐怖の場所になります。だらっとしたグレーの部屋着姿の男性がアパート前に立っているんです。
年は17~20歳、坊主頭の若い男性です。男は死んだような虚ろな目と無表情で時おりア″~ア″~と声を出します。
ただ突っ立って見てるだけでしたが、みんな怖がってました。男がいる時はうつむいて目を合わさないようにしてました。
ある時、列の前の方で悲鳴が上がりました。見るとあの男が低学年の女の子を腕をつかんでました。そして神社の中に連れ込もうとしてました。
同じ班らしき高学年の男の子たちが「やめろよ!」「離せよ!」と言うも、男は離しません女の子は泣いてました。
騒ぎに気付いて近くの家からおじさんが出て来ました。おじさんは「K君止めなさい」と女の子を男から引き離し、事なきをえました。
それからしばらくは、あの男が外にいると、必ず横に母親らしきおばさんが付くようになりました。子供心にそのおばさんも怖かったです。
見た目はほがらかそうなおばさんなんですが、ガリッガリに痩せています。本当に骨と皮だけという姿。そこまで痩せてる人を見たことがなかったので、恐怖を感じました。
また別の日、友だちと二人で下校していた時です。その日はクラブがあったので、いつもより人が少なく、時間も遅くなってました。
少し先の家の影に、何かから隠れるようにとなりのクラスの子が三人いました。
「何してるの?」声をかけると、三人はしーっと指を立て「あいつがいる」
私たちもそこに隠れ、道の先を見るとあの男が一人で立っていました。今まで朝にしか遭遇しなかったので驚きました。男は手に棒と袋を持ってました。
「どうする?いなくなるまで待つ?」
「ダッシュで通って逃げる?」
「えー、でもあいつ棒持ってるよ!急に叩いてくるかもしれないじゃん」
「神社抜けてく?」
「あいつが気付いたら追ってくるんじゃない」
ヒソヒソやり取りしてると突然、ぼすっ!と音がしました。
「ア″~ア″~」男は声を上げ袋を道に置いて棒で叩き出しました。ここから袋の中身はわかりません。
男は何度も何度もぼすっ!ぼすっ!と無心で叩いてます。とても横を通る気にはなりません。
もう道破り(通学路と違う道を使って帰ることです)してもいいから男をさけて帰ろうとした時、あの痩せたおばさんが出て来ました。
「Kくんダメよ、そんな乱暴な事やめなさい。あらぁ、かわいそうなことして。死んだらどうするの?ダメって何度も言ってるでしょ。片付けてお家に入りましょう」
おばさんと男はアパートに消えました。五人とも黙ってアパートの前を通りました。
あの男が何を叩いていたかはわかりません。でもおばさんの言葉で嫌な想像が膨らんで考えないようにしました。
通り過ぎた後は、みんな男の事には触れないようにして、宿題やクラブのことなど当たりさわりのない話をして別れました。
それから一年ほどして男は引っ越しました。元々古い建物だったせいか間もなくアパートも壊され、今は一戸建てが並んでいます。
今でもそこを通るとあの男の事を思い出します。
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