祖母の手
16/09/01
かれこれ15年程前の話。

当時付き合っていた彼女(後の妻)と夏休みの最後に、思い出作りとして車で出かける約束をした。

自宅には寝たきりの祖母が施設から一時帰宅していて、その祖母に出かける前のあいさつをした。

普段ならニコニコしながら手を振ってくれるのに、その日は俺の手をつかみ、首を振って何かを嫌がった。介護の経験ある人なら分かるだろうけど、寝たきりの年寄りでも意外と力あるんだよね。

昔可愛がってくれた祖母なので無理に引きはがすわけにも行かず、彼女には腹の調子が悪いから遅れると連絡して、祖母の話し相手をした。

話し相手と言っても祖母はほとんど喋れなくなっていたので、こちらが一方的に話しかけるだけなんだが、そんな祖母が「(俺)ちゃん、急がば回れよ」と聞き取れるレベルの発声で声を出した。

祖母はそう言うと手を離し、俺とその場にいた母は祖母の異常に変な予感を感じた。

俺は約束の時間から30分程遅れてしまい、当初の予定がだいぶ狂ってしまったので、彼女と話してドライブメインに切り替え、遠回りで目的地まで行くことにした。

10分程たった頃、彼女の携帯に連絡が。何やら相手は取り乱しているようだった。何事かと思い路肩に停めたら、相手は彼女の母で、ニュースで元々通る予定だった道路で事故が起きたんだとか。

俺は彼女に今朝の話をし、二人で祖母に礼をした。祖母はその数日後に眠るように亡くなった。

今でも当時の事は「祖母が(俺)を守るために最後の気力を振り絞った」としてたびたび話題になる。

長々と失礼しました。