原爆ドーム
12/03/22
中学生の時、修学旅行で広島へ行った。

原爆ドームへ向う道中、川に架かった橋を渡っていると、ガイドさんが「原爆で大火傷を負った人々が水を求めてこの川に殺到し、大勢がこの場所で生き絶えた」と教えてくれた。

お調子者のKは同じ班の俺やその他の連中に「おい!川に無数の手が見える!」「人々のうめき声が聞こえる!」などと不謹慎な冗談を言いまくっていた。

もちろんKに霊感などない。ただの構ってちゃんである。いちいち反応するのは疲れるので、みんなでスルーしていた。

旅館で俺はKとその他三名と同室であった。夜になってもKはずっと「ドームから焼けただれた顔がコッチを見てた」等々、嬉々として語っていた。

俺はウンザリしていた。

消灯して寝るときになっても「おい窓に人影が!」などとほざいていた。

しかしみんな疲れていたので早々に寝息が聞こえてきた。K以外は前日明け方まで馬鹿話で盛上っていたので寝不足だった。たっぷり眠っていたKのみ元気であった。

俺はなぜか眠たいのに眠れなかった。

Kは眠っている連中にお構いなく10分置きくらいに「天井に顔が」「赤ちゃんの泣き声が」などといっていた。

俺は寝たふりをしていたが、何度も寝返りをうっていたので、Kに狸寝入りを見抜かれていたのかも知れない。

その内「ブスゥゥゥゥ…ブスゥゥゥゥ…」という変な息の吐き方をし始めたのでマジで腹がたってきた。本気のクレームを入れてやろう、Kの反応次第では怒鳴り付けてやる、そう思ってKの方を見た。

俺はドキリとした。

何者かがKの枕元で正座をしていた。

別室の友達が遊びに来たのだろう。

そう思った、思おうとした。

しかしKの枕元に座り、Kの顔をのぞき込んでいる何者かは真っ黒な影の様にしか見えず、男か女かすらわからなかった。

友人なら構ってちゃんのKが黙っているハズなどない。しかしKからは緊張しか伝わって来ない。

「ブスゥゥゥゥ…」という変な呼吸音はKが出しているのか、それとも影の様な奴からなのかわからないが、異常事態が起きている事を告げていた。

俺はすっかりビビって硬直していた。

影と目が(奴に“目”があればの話だが)合ってしまわない様に目をきつく閉じ、息を殺した。

怖くて寝返りもうてない。目を開けると今度は自分の顔がのぞき込まれているんじゃないか?と思えて、様子をうかがう事も出来なかった。

気が付くと「ブスゥゥゥゥ…」という変な呼吸音は消えていた。奴が消えたのかな?と思ったが、結局目を開ける勇気は出なかった。

そして、いつの間にか眠りに落ち、朝が来た。多分夢だったのだろうと思った。

Kがばつが悪そうに「寝小便漏らした。頼むから誰にも言わないで」と同室の面々に懇願してきた。

Kいわく「深夜に恐ろしい夢を見てチビってしまった」「恐怖の余韻が消えず、濡れた布団から出ることも出来ず、朝を迎えた」との事だった。

悪夢の内容は、皮膚が炭化する程焼け焦げた人間に、顔をジッと睨まれた、という物だった。

Kを笑う気には、到底なれなかった。