夜の病院
13/04/29
ユーレイとかじゃない話。

自分は病院に勤めてるナースなんだけどさ、この前ドクターから「パソコン貸して」って頼まれたのね。

ウチの病院は電子カルテなんだけど、セキュリティ上、端末の光学ドライブとUSB端子がロックされてんのね。で、間抜けな話なんだけど、他の病院からの電子データが病棟の端末から開けないんだよ。

検査室はMRIのクエンチングで使えないし、研究室の端末も他のドクターが使ってるとか。ついでにドクターは自分のパソコンも忘れたんだって。

その時たまたま日看協に出す論文を書くために自分のパソコンをもってきてたから、「いいですよー」って言って貸したの。

たしか透視下で心臓近くの血管にステントを挿入してるのを写したCD‐ROMって言ってたかな。確かに転入してきた患者様いたからね。

CDには近くの大学病院の名前とロゴがプリントされてて、たしかに患者様の名前も間違いなかった。

それでCD‐ROMを入れて、自分とドクターとで映像を見た。スタッフルームの端だから他の人は角度的に見れなかったと思う。

そしたらいきなり、暗い廊下をカメラで撮影しながら移動してる映像が始まってさ、自分もドクターも「は?」みたいな感じ。普通透視下の画面って白っぽいから、よけいに面食らった。

たまたまそのとき音をミュートにしてなくて、キュッキュッって靴の音と、なんか潜めてるような人の声まで入ってんだよね。

なにコレ、中身違うじゃん、と思ったんだけど、画面見てすぐわかった。廊下が例の大学病院には間違いないんだよ。ああいうトコって個性ないようで、意外とわかるもんなんだ。

多分自分だけじゃなく、ドクターもそう思ったからすぐに映像を止めなかったんじゃないかな。

画面と音からすると、例の大学病院の廊下を、夜中にデジカメで撮影しながら歩いてるみたい。てかCD‐ROMじゃなくてDVDじゃんコレ。

時々入る声とか、画面の端に微妙に写る手とか足から考えて、撮影してる人もふくめて3人ぐらいいるのかな?声ははっきりしないんだけど、

「マジで…ヤバくない?」

「バカ、スッゲー…だって」

「可愛い子…ステッて」

みたいな、学生っぽいけどなんかいかにも『やっちゃイケナイことしてます~』感アリアリの、興奮を抑えてるような声でさ、さすがにコレなんかまずいんじゃないの?って気がしてきた。ドクターもそう思ったらしく、

「あ、もういいから止めよう」

とかなんとか言いながら、横から手出してマウスをクリックした。

どこをクリックしたのか、画像が終了じゃなくて、一時停止になった。最後の画面ははっきり見えたね。ちょっとブレてるけど、間違いなく『霊安室』って書いてあった。

この話はこれで終わり。

ドクターが血相変えて長電話してたり、なんだか自分が院長に呼ばれて保助看法上の秘守義務がなんちゃらかんちゃら、主語がなくてさっぱり要領のわからない話されたり、

大学病院で教授から年賀状が来なかった学生だかドクターだかがいたとか、その教授から自分当てにスゲー高そうなウイスキーだかスコッチだか届いたけど、自分酒飲めないからドクターにあげたとか、

まあそういうよくわからない話でした。おしまい。