線香
07/04/14
3年前、母方の祖父が亡くなった。

担当医から「今夜が山」と言われていたので病院には母方の親類一同が集まっており、みんなが見守るなかで爺ちゃんは逝った。

爺ちゃんは霊安室に移動され、親類一同も移動。沈黙の時が過ぎる。

そこに、母方の親類とは普段疎遠な俺の親父がやってきた。親父は神妙な面持ちで婆ちゃんにあいさつして、焼香台へと向かう。

親父は線香を手に取り火をともし、手で火を消し払い灰に立てる…はずだったのだが、手は線香との距離を見誤り、線香先端にヒット。

折り飛ばされた先端は、あろうことか同席してくださっていた担当医の靴の上に…担当医は沈痛の面持ちで目をつぶっていたので気付いていない。

線香の煙は担当医の股間を狙うかのように細くあがっている。教えてあげたいのだが、その担当医の沈痛過ぎる雰囲気にみんな動けない。

そんなみんなの動揺をよそに煙は容赦なく担当医を包みだす。

俺はそれまでの緊張もあり、そのドリフ級のあまりにもベタな展開に耐えきれず、ついにクスッwと笑ってしまった。

連鎖するように姉がクスッw。こうなると全員笑い上戸な我が家の家系はもう止まらない。親類一同大爆笑。

何が起こったのかわからず、足から煙をあげながらキョトンとしている担当医の姿に、最後まで踏んばっていた婆ちゃんも耐え切れずに笑いだした。

いま思えば担当医には悪いことをしたが、笑い番組の好きだった爺ちゃんが、最後のイタズラをしたような気がしてならない。