12/07/03
私の祖父は泳ぎがうまい。よく一緒に山の川で遊んだ。
いつものように対岸まで泳いで、元の岸へ戻ろうとした時のこと。上流から何か泥のかたまりのようなものが流れてきた。
それはあっという間に祖父を取り囲むと、泳いでいた祖父の頭が「とぷん」と消えた。私がハラハラしていると、すぐに祖父が顔を出したのでホッとした。
岸に上がると祖父はやけに疲れた顔をし、口数も少なかった。祖父の横腹には手のあとのようなアザができていた。
次の日、外で遊んでいると田んぼのすみに妙なものを見つけた。泥まみれのビニールのようなものがグチャグチャになってつぶれていた。
気になって祖父に「あれは何?」とたずねると、
「カッパも人間様に負ければ、ああなるということだ」
と言っただけで、あとは何も教えてくれなかった。
そう言えば母に「川で遊んで水を濁すと、カッパが怒って襲ってくる」と聞いたことがある。もしかすると、祖父はあの時水の中で、カッパと戦って打ち負かしていたのだろうか――。
そのグチャグチャしたものは、太陽の光で徐々に溶け、昼ごろにはすっかりなくなっていた。
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しかし、負けたら死ぬって悲しい宿命だ。
ほんとに泳ぎの達人だったのね
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