
俺は幽霊なんかは見たことがないし、見たことがないから信じていなかったけど、この件があって以来、ものが「憑く」ということはあるんじゃないだろうかと思うようになった。
真夜中で、しかも暗い部屋の中での出来事なんで寝ぼけていたのかもしれないし、何かの見間違いかもしれないけど…。
次の日が休みだったんでその日は部屋で夜中までDVDを観ていた。嫁があまり好きじゃないジャンルの映画だったので、嫁は先に寝室で寝ていた。
二本観終わったら相当遅くなってしまっていたので寝室に行き、嫁の隣に敷いてあった布団に入り込んで目をつぶったんだが、映画で興奮していたせいかなかなか寝付けない。
それでも30分ほどしてうつらうつらし始めたその時、隣の雰囲気がいつもと違うことに気が付いた。寝るときはいつもグースカグースカうるさい嫁が、今日はなぜか妙に静かだ。
嫁の方に寝返りをうって薄目を開けて様子を見ようとしたら、まるでそれを待っていたかのようなタイミングで両肩をガッとつかまれた。
びっくりして目を開けると、俺の両肩をつかんだ状態で嫁が強烈にエビぞってた。シャチホコみたいに。
相当強烈にエビぞっているせいか、顔は全く見えない。おいおい寝ぼけるにも程があるだろ…と思った次の瞬間
ぶんっ、ぐしゃっつ。
最初は何が起こったのかわからなかったけど、襲ってくる激痛と目の前に広がる火花で、嫁が自分の頭を俺に向かって思いっきり叩きつけている、ということがわかった。
しばらく目が開けられなかったが、痛みをこらえながら嫁の方を見るとなんとさっき以上にエビぞっていて、後ずさりする俺の両肩をまたも思いっきりつかんできた。
こちらが向こうの顔が見えないということは、向こうだってこちらの様子は見えないはずなのに、不思議なことに全く迷うことなく俺の両肩を探し当てていた。
「ちょ、ま…」
ぶんっ、ぷぐしゃっつ。
二度目は本当に効いた。意識が遠のいた。これ以上やられたら死ぬ。嫁も死ぬ。
なおもエビぞって勢いをつけようとする嫁のアゴを下からつかみ、「やめろぉぉお!!」と思いっきり押し込んだ。
ゴン、と鈍い音がして嫁の体から力が抜ける。後ろの柱に頭をぶつけたようだ。
痛む頭を押さえつつ、電気をつけて嫁の方を見ると、白目をむいて口をパクパクしながら痙攣していた。口の動きは何かを言っているようにも見えたが、言葉は発していなかった。
「おい、大丈夫か!!」
嫁をゆすりながら急いで119番。救急車が来るまで10分ほどかかったが、その頃には嫁の様子もだいぶ落ち着いていた。
夫婦の妻の方の頭の前と後ろに打撲跡。最初DVを疑われたが、こっちにもでっかいたんこぶが残ってる。
嫁の「付き合い始めてこれまで一度も手をあげられたことなんてない。」の一言もあり、夫婦共々寝ぼけていたんだろうということになった。
かなり強く頭を打ち付けあったが、幸い二人とも脳などに異常はなかった。もちろん、嫁は何一つ覚えていなかった。
それからしばらくは嫁の横で寝るのが怖かったが、あんな事は結局それ一回っきりだったし、嫁に「きっと寝ぼけてたんだよー。ごめんよー。」などと謝られると、それ以上避けるのも悪い気がした。
ただ、今でも「のけぞっている時はどんな顔だったんだろう」とか「電気を付けたとき、なんて言ってたんだろう」なんて考えだしてしまうと、布団の中で少し嫁から距離をとってしまう。
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奥さんの異常行動が心霊的なものによるという証拠は無く、何かに祟られたり憑かれた心当たりも無く、それなのに超常的なものに原因を擦り付ける短絡思考は度し難い。一度も妻に暴力をふるっていない投稿者は善人なのだとは思いますが。
「ヒステリー」と言うと、通俗的には女性の感情的な興奮を指し、実際にギリシャ語の子宮を表わす語が由来だそうですが、本来は精神医学用語でした。詳しく書き出すとコメ欄がパンクするので省略。奥さんの奇行は、ヒステリーに由来する人格障害が原因かも知れませんよ。
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