山、不気味
14/03/23
うちのジイサンの話だが、聞いたのは親父からだ。ジイサンの住んでた実家は北陸のほうなんだが場所はちょっと勘弁してくれ。

ジイサンが40代の頃、自分の持ち山に入って山菜採りをしていた。それが夕方になって青い顔をして帰ってきて、履物を脱ぐなり

「山の中国人に目をつけられた」

と言った。

家のものは誰もその意味がわからなかった。

その地方には山に中国人が住んでるという言い伝えのようなものはなかったし、見た人もいなかった。ほとんど外国人が住んでいるとこではなかったんだ。

ジイサンは若いころ台湾にいたことがあり、それと何か関係があるのかもしれない、と親父は思ったそうだ。

翌日から、ジイサンは家(わらぶき農家)の戸締まりを厳重にし、つねに山刀を持ち歩くようになった。

それと外出をさけるようになったが、これは田仕事があるんで出ないわけにもいかない。それでも日が落ちてからは外出しないし、なるべく人と連れ立って歩くようになり、山には絶対に行かなかった。

2週間くらいして、家の田んぼに立てていたカカシに赤黒い液体がかけられているということがあった。ジイサンが見つけたんだが、田んぼの中にまで流れ込んですごい量だったらしい。

ケモノか人間の血ではないだろうか?とジイサンは言っていたそうだ。

このことがあってジイサンの精神状態はかなり悪化して、夜中にとび起きて包丁を振り回すということまであったそうだ。

それからまたしばらくして朝外に出たら、家の表戸に大量の血がかけられているということがあった。

見つけたのは親父で、読めなかったが血で汚れた戸には漢字だけで書かれた護符(ごふ)のようなのが貼られていたんだと。

親父はすぐにジイサンに知らせ、ジイサンは様子を見るなり意を決したように竹竿の先に包丁を縛りつけた手製のヤリ?を持って、家族が止めるのも聞かずに、握り飯を背負って山に入っていったそうだ。

その日、夜になってもジイサンが帰ってこないんで、家のものが村役に知らせ、翌日村の若者組による大々的な捜索があった。

山では見つからなかったが、遅くなってから近くの谷の渓流沿いで、大木に縛りつけられて死んでいるジイサンが見つかった。

足だけが上のほうの幹に縛られた逆吊りで、鋭利な刃物で内蔵がすっかり抜かれていたという。その木の周りには紙の護符がたくさん散らばっていたんだそうだ。

もちろん村の駐在で事足りる話ではなく、県の警察がきて調べ、家族は一連のことについていろいろ聞かれたがまったく手がかりはなく、犯人は捕まらなかった。

当時の新聞にも載った事件らしい。

親父はその後成人して、「山の中国人」につてかなり調べたらしいが、わかったことは教えてくれなかった。