戦争、焼け野原
11/09/27
俺のばあちゃんの話。

ばあちゃんは不思議な人で、昔から俺だけに「おばあちゃんは、幽霊が見えるとよ、誰にも言っちゃいかんけんね」って言っていた。

実際に俺が霊体験をしたわけではないが、婆ちゃんの話は印象に残っている。

婆ちゃんが幽霊が見えるようになったのは結構大人になってからで、15歳のときだったらしい。

婆ちゃんは、もともと福岡にすんでいて、福岡大空襲のあとに見えるようになったって言っていた。

空襲が終わった後、まわりは一面の焼け野原、婆ちゃんの両親も亡くなって、これからどうしようと途方にくれていたとき、一人の大ケガした男の人を見つけたんだって。

急いで近づいたけど、どう考えても生きていられるような傷じゃなかった。両腕は吹っ飛んで、脳みそははみ出してるのに

「痛い、痛いー、おとうさーん、お母さーん」

ってずっと泣き叫んでるんだと。婆ちゃんは体をつかもうとするが、なぜかつかめない。話しかけても反応しない。そのうち婆ちゃんも怖くなって走って逃げたらしい。

その日から婆ちゃんは幽霊が見え始めたって言ってた。

外を見れば体中から血を噴出して叫んでのた打ち回ってる人や、焼けただれた体でひたすら助けを求める人、頭がないのに動いてる人、最初は地獄だったって言ってた。

空襲が終わった後、どうにか親戚に身を寄せることが決まっても幽霊は見え続けんたんだと。

でもそれは絶対言えなかった。幽霊が見えるなんて言ったら、速攻でキチガイあつかいされるような時代だったらしい。

でも婆ちゃんもなかなか強い女で、だんだん幽霊も見慣れてきたらしい。足がなかろうが、頭が吹っ飛んでようが、あんまり怖くなくなったんだと。

婆ちゃんいわく、幽霊ってのは知らん振りすればあんまり関わってこないらしい。下手に近づくほうが危ないんだと。初めて見た頭が吹っ飛んでる人にも相当長い間付きまとわれたらしい。

そんなある日、だいぶ町並みもまともになってきたころ、婆ちゃんは一人の知り合いの男の子を見つけたんだって。

その子は近所に住んでいた子で、よく遊んであげた子。でも本当は死んでるはずの男の子だった。

両腕がなくなってて、痛々しい姿で婆ちゃんを見ると「お姉ちゃーん!!」と、大きい声で叫んだ後、にっこり笑って呼んでいたらしい。

でも幽霊の怖さを知り始めた婆ちゃんは、知らん振りし続けたんだと。それからそこを通るたび絶対返事をしない婆ちゃんにむかって「お姉ちゃーん」って叫び続けたって。

「幽霊が見えるようになってずいぶんたつけど、あの子はまだあそこにいるんだろうね」

って婆ちゃんはさびしそうに俺に言った。

落ちはない婆ちゃんの話。