線香
11/08/13
義妹が地元の短大を出てしばらく葬儀社に勤めてたんだけど、そこで色々面白いことがあったと言ってた。

その中からかいつまんで。

そこの葬儀社、ある時期と言うかその歌が流行りだしてから、出棺の際に、千の風になって~♪をかけるようになったんだと。

社長の趣味というか演出というか、まあ気遣いのつもりで始めたサービス。

で、とある方の葬儀にて、その方は町の有名な教育者で、そういう浮ついた物が大嫌いな堅物な方らしかったんだけど、

「出棺です。遺族の方、ご来席の方はお見送りを~」

となって、皆が霊柩車に連なるように見送りの列を作り、喪主の奥様が遺影を持ち、続いてお棺を抱えた遺族が待機。

そこで社長が、千の風になってのCD再生のボタンを押した。

…イントロ開始~ストップ。

あれ?

イントロ開始~、またストップ。

ええ?おかしいな?チェックした時は何ともなかったのに。

もう一回ポチッとな。

イントロ~(おお今度は大丈夫そうだ)それではお進み下さいと喪主の方に伝えたとたん

「わ゛あぁああ゛ぁぁだぁぁあぁぁしぃぃいのぉぃいおいおおはぁあぁがぁぁあ゛ああ…(訳:私の~お墓~)」

まるで伸びきった古いカセットテープを無理矢理再生したような不気味な歌声が大音量でなり出した。CDなのに。

ヒッっと悲鳴めいた叫びが聞こえ、おびえた子供達が泣き出す。あわてて音楽を止める社長。

「ただいま音響設備上の不備があり、音楽を流すことが出来ませんが…うんぬん」

の放送の後、気を取り直し

「ご出棺です」

以降、千の風になっての演出は取りやめになったとか。

そこの葬儀社関連で聞いた一番オカ板らしい話。

ある梅雨のころ、とある寝たきりの独居老婆が心不全で亡くなられた。

不審な点はあれどそこは田舎の警察。まあ事件性はないでしょうと検死もなく葬儀を許可。

葬儀の当日、80余名ほどの列席者が参列の中式はつつがなく執り行われた。読経が始まり

「それではご焼香を」

喪主を最前列に焼香が始まる。親族が続き集まった参列者が列をなし、個人をしのびながら焼香する。

義妹も式の様子と優しげに微笑むお婆ちゃんの遺影を見比べて

「良い式だなあ。お婆ちゃん良かったねえ。私もいつかこういう風に見送られたいもんだよ」

と感じ入ってたのだとか。

ところが、とある親族の方、遺影のお婆ちゃんの甥っ子にあたる中年男が焼香の列に加わったとたん、壇上のロウソク全てが激しくゆらゆらと揺れだした。

風か?空調を見る社長、いや風じゃない?窓開いてない?大丈夫です。

何だ何だ?とスタッフ一同ざわつく中、件の中年男が遺影の前に立ち、お香を取り額まで持ち上げたとたん、全てのロウソクがフッとかき消えた。

何事ぞ?と参列者、スタッフ全員が壇上を見上げる。我介せずと読経を続けるお坊さん。

すると左側に掲げてあった重い金属のロウソク立てが、かき消えたロウソクを乗せたまま、勢いよくばーんと見えない手にはたき飛ばされるがごとく吹っ飛んだ。

凍り付く空気。あうあうなる中年男。ざわつく会場。

しかしお坊さん少しもあわてずひときわ大きな声で、だけど優しい口調で読経を続けた。

お坊さんの声にハッとなる中年男。そそくさと焼香だけ済ますと、親族のくせに逃げるように帰って行った。

目の前で起こった怪現象に微妙な空気に包まれる会場。

喪主の長男がお坊さんに何事だったのですかねえと問うとお坊さん

「私の口からは申し上げられないけども、まあ一月もすれば分かるでしょう」

と。

果たして件の中年男、お婆さんの通帳と実印他文書を勝手に持ち出したなどで御用となり、追ってお婆ちゃん殺害の件でも起訴されたのだとか。

その葬儀からほぼ1ヶ月後のことでございました。

このお坊さん、あいさつのたぐいが下手で、今まで檀家さんにはあまり人気がなかったそうなのですが、この事件を境に大きく評判を上げ、田舎のご老人がたが多く相談に詰めかける寺になったのだとか。

その彼のイニシャルはT。しかし残念ながら婿養子。寺生まれではないらしい。