地獄
15/05/16
怖いというより悲しい話だけど。

一年前母さんが死んだ。小さい頃から大好きだった母さん。

俺が小学校で虐められてることを打ち明けた時、泣きながら

「何があってもお母さんだけは〇ちゃんの味方だよ」

って言って抱きしめてくれた。学校やいじめっ子の家に一緒に付いてきてもくれた。

中学から高校まで、反抗期で冷たく当たる俺に、毎日手作りの弁当を作ってくれた。

中2の時、なんとなく気恥ずかしくて、合唱コンクールと体育祭は見に来ないでくれと言ったとき、

「そっか…頑張ってね。帰ってきたらお話し聞かせてね」

って本当に悲しそうな顔してた。母さん専業主婦だったから、俺の学校行事を本当に楽しみにしてたんだと思う。

大学受験に失敗した時、「お母さん、パートして頑張るから。もう一回挑戦していいよ」って背中を押してくれた。

就職して初めて、母の日にレストランに連れて行ってサプライズでカーネーションをあげた時、泣いて喜んでくれた。

俺は一人っ子だったから、母さんも俺のことを本当に愛してくれてた。

亡くなる直前、お医者さんたちが慌ただしく処置をしている中で俺の手を握りしめて、

「母さん、まだ死にたくない。まだ〇ちゃんの子供の顔見てないよ。ずっと〇ちゃんと一緒にいたい。」

って。号泣した。母さんも泣いてた。

まだ独身だったから孫の顔を見せられないことが本当につらくて悔しかった。

母さんが亡くなって1か月ほどたったころから、俺は体調を崩すようになった。

全身がとにかく重い。食欲も全然出ない。めまいや吐き気もひどく、体重がどんどん減っていった。

いろんな病院に診てもらったけど、どの医者も原因不明というばかり。薬もいろいろ試したけどダメだった。

ある日の仕事の帰り道、神社の前を通ったとき、ある看板が目に留まった。

「霊症(霊が見える・原因不明の体調不良など)でお困りの方。相談乗ります。」

俺は元々霊とか全く信じていなかったけど、その時はもう藁にもすがる思いだったから、試しに相談だけしてみようという気になった。

神主さんは俺を見た瞬間、

「あぁ、お祓いが必要ですね」

って。まだこっちは何も言っていなかったのでびっくりした。

神主さんいわく、俺の守護霊が正常に機能していないせいで俺に悪影響が出ているから、守護霊を交代させる必要がある、と。

普通守護霊は数十年で代わるらしく、天界にいる先祖が交代で人間界に下りてきて担当することが多いらしい。

ただ、稀に俺の守護霊のように宿主に悪さを働く霊もいるらしく、そういう場合は強制的に追い払う必要があるという。

そうして強制的に交代させられた守護霊は、簡単に言えば地獄のようなところに送られて、二度と天界には戻れなくなるらしい。

なんだかよく分かんなかったけど、とりあえずそれで俺の状態が良くなるんなら早く守護霊交代させてください、って頼んだんだ。

「しかし…その前に一つお伝えしなければならないことがあります」

「何ですか?」

「あなたの守護霊は…お母様のようです」

絶句した。
なんで。
どういうことだよ母さん。

「…なんで?なんでですか?俺、別に母さんと仲悪かったとか、そういうの、ないです。むしろすごい…すごい仲良かったです」

「お母様はあなたを本当に愛しているようです」

「?」

「あなたのお母さんは、まだあきらめていない。」

「…どういうことですか?」

「あなたをあの世に引きずり込もうとしています」

「ずっと〇ちゃんと一緒にいたい」

あの日の言葉。

俺、まだ生きたいよ。
ごめんね、母さん。

そして、母さんは地獄に落ちた。