山奥
07/03/20
今からもう10年以上前の話で、確かではありませんが、5歳ぐらいの頃の事だと思います。

私の住んでいたところは山奥の村(?)でした。

電気も電話もなく、道さえ舗装されてないような、時代錯誤もはなはだしいような場所です。

その村に住んでいたのは私と私のおじいちゃん、そして双子のヒサシとトモユキとそのおじいちゃんおばあちゃんの6人だけでした。

二人は障害を持っていてヒサは口が聞けず、トモは生まれ付いての虚弱体質で、一人ではろくに歩けもしないほどでした。

それでも私たちは仲が良く、いつも一緒に遊んでいました。

ヒサとトモは二人で一つのような存在で、どこかへ行く時はヒサがトモを背負い、話をする時はいつもトモがしゃべっていました。

学校は近くになかったし、街へも出た事がありませんでしたが、勉強は二人のおばあちゃんが教えてくれるので何不自由なく暮らしていました。

そんなある日、私たちが村の大鳥居のところで遊んでいると、ヒサたちのおじいちゃんが大あわてで走ってきます。

その顔があんまりに嬉しそうなので

「何か良い事があったのかな?」

「今日はご馳走かな?」

なんて3人で話していました。
案の定おじいちゃんは

「今日はめでたいことがあったけん、ご馳走じゃ」

と私たちを家に連れていきました。

ヒサたちの家に着くと私のおじいちゃんも待っていてくれましたが、なぜか暗い顔をしていたのを覚えています。

今思えば、私のおじいちゃんはこれから起こる事を知っていたんだと思います。

だけどその時は「なんで悲しい顔をしてるんだろう?どこか具合でも悪いのかな?」と考えていました。

食間に通された私たちに出されたのは、黄金色に透き通ったお酢みたいなものでした。

私たちがそれぞれに「何だろう?」とけげんそうな表情を浮かべていると

「神様からいただいたありがたいお酒だから飲みなさい」

とヒサたちのおじいちゃんが急かします。

ヒサが意を決して飲み干し、そしてトモにも飲ませていましたが、私はどうしてもその気になれませんでした。

すると後ろにいた私のおじいちゃんが

「サトコ、お前の分は薄くしてあるけん、めんだな(面倒な)事にはならん、飲め」

と言いました。

私はおじいちゃんが大好きだったので、「おじいちゃんが言うなら大丈夫だ」と一気にそれを飲み干しました。

しかしそんな私の信頼を裏切るかのように、とたんに目が回り始めました。

定まらない視界をヒサたちの方へ向けると、二人ともすでに倒れこんでいるように見えました。

その直後私も体を支えられなくなり、その場に倒れこんでしまいました。

しばらくして意識を取り戻すと、地面がガタガタと揺れていましたが、すぐに私は車の中だと気付きました。

私たちは一体どうしたんだろう?と考えますが、どうにももうろうとして考えが回りませんでしたが、誰かの話し声はうっすらと聞き取れました。

「わーがえなもん(お前みたいな奴)死んだが良かったんじゃ」

と声を荒げるのは私のおじいちゃん。

「やくたいもねこと(しょうもない事)いつまでも」

と切り捨てるような声はヒサたちのおばあちゃん。

「しちねんぶりのいんび(いみび?)だけんあきらめ!」

と怒鳴るのはヒサたちのおじいちゃん。

私たちはこれから何をされるのだろう?怖くて怖くてたまりませんでした。

それからどれくらい走ったのか、おじいちゃんたちは車を止めました。

私たち三人を車から降ろしてどこかに連れて行こうとしていましたが、私は怖くて狸寝入りをしていました。

途中までずっと怒鳴っていたおじいちゃんは、私を抱えながら

「わりしこだった、わりしこだった(すまなかった)」

と泣いていました。

暗い納屋のような場所に私たちを寝かせると、ヒサたちのおじいちゃんはお経のようなものを読み始めました。

私は「きっと殺されるんだ」と思い恐怖で体が震え、体中から冷や汗がどっと噴出しました。

心の中で何度も何度も「おじいちゃん助けて!」と叫びましたが、おじいちゃんは顔を伏せたまま気付いてくれません。

お経のようなものが終わり、ヒサたちのおじいちゃんは懐から錆びた小刀のようなものを取り出して私に向けました。

「もうダメだ!」そう思ったとき私のおじいちゃんがヒサたちのおじいちゃんに飛びかかりました。

「おじいちゃん!」

私は力の入らない体をそれでも必死に起こしました。

「逃げえ!ヒサもトモももうあかん!お前だけでも逃げえ!」

と取っ組み合いになりながらもおじいちゃんは叫びました。私は必死に立ち上がり、出口の方に駆け出しました。

後ろからヒサたちのおばあちゃんが

「あかん!お前は逃げたらあかんのんじゃ!」

と叫びながら追って来るのがわかりましたが、それでも必死に走り続けました。

おじいちゃんの事もヒサたちの事も心配でしたが、必死に必死にその建物から飛び出し、海沿いの道を走り続けました。

どれくらい走り続けたのかはもう覚えていません。裸足だった私の足は皮が破れて血まみれになっていました。

痛みに耐えかねてよたよたとよろめきながら歩く姿に「何かあったのだ」と感じたのでしょう。通りかかったパトカーが止まり、降りてきた警察官が声をかけてきました。

「助かった!」

私はさっきの出来事を上手く説明出来ないながらも、必死に事情を説明しました。

自分でもうそ臭い作り話に聞こえるような話し方になってしまいましたが、なんとか事情を理解してもらう事が出来ました。

私はパトカーに乗せられ、元来た道を警察官と一緒に戻っていきました。

しかし私たちが戻るとみんなの姿はなく、しんと静まり返っていました。警察官と二人で二階も探してみましたが、どこにもいなくなっていました。

その後、私は警察署に連れて行かれて色々な事を聞かれました。何があったのか、私の名前、住所や電話番号、家族の事。

でも答えられたのは「サトコ」という下の名前と、さっき起こった出来事だけでした。

その時まで気付いていませんでしたが、私は両親のことも住んでいた村の名前も覚えていなかった、いえ、知らなかったんです。

行方不明の届けにも該当せず、帰る所も身寄りもない私は施設に預けられました。

今では7歳の頃に養子としてもらわれた家で、色々と問題もあるものの平和に暮らせています。

でも今でもこの時の事を夢に見て思い出すことがあります。

おじいちゃんたち、そしてヒサシとトモユキはどこへ行ったのか、あの時おじいちゃんたちは何をしようとしていたのか。

長文&読みづらかったらすいません、これが私の子供の頃の思い出です。



574:07/03/20(火)10:22:10ID:T9K8FGmg0
10数年前で電話も電気もない。この時点で興ざめ。



577:07/03/20(火)11:16:05ID:fClMuc/l0
10年前なら分からんが、10数年前なら電気も電話もない山奥ってあったぞ。
そのせいで場所が特定出来そうだけどなw


引用元:https://2ch.live/cache/view/occult/1171985665