男
15/05/06
俺の家は2Kで、嫁と俺の二人暮らし。

パソコンがある部屋とテレビがある寝室は襖で別れている。

休みの前の日に映画のDVDをレンタルしてくると「寝るのを邪魔しちゃ悪いし、隣の部屋のパソコンで観るから」と言って襖を閉じてパソコンで映画を観る。

映画は観るが、本当のお楽しみは映画が終わって夜も3時を過ぎたあたりから。

まあ、いかがわしい動画サイトを回るわけですよ。昔11PMやオールナイトフジを親に隠れてこっそり観ていた経験から、イヤホンはつけない。

片耳だけつけるという人もいるが、やっぱり片耳聞こえないと反応が遅れると思う。

耳は後ろの襖、目はモニターに集中しながらあれこれと探していると、ずっと探していたとある動画を見つけた。

時間は5分ちょいか、短いバージョンだなぁ、でもやっと見つけたし…等と思いながらクリックした瞬間、後ろの襖がガラッと開く音が聞こえた。

経験上、ここで後ろを振り向いたらダメだ。頭でモニターをディフェンスしつつ、すばやくウィンドウを閉じることを試みる。

「すべてのタブを閉じますか?」

馬鹿かお前、閉じるに決まってんじゃんか!!

あせって右上の×をクリックしようとするがうまくカーソルが合わない。今思えば真ん中の「はい」をクリックした方が早かった。

後ろからは動く気配がしない。くっ、モニターをのぞき見られたか…。観念して後ろを振り向いた。振り向いた瞬間、我が目を疑った。

見たこともない男が襖の、ちょっと奥に立っている。

顔から血を流しているわけでもない、うらめしそうなわけでもない、少し頭髪のさびしい、普通のおっさんが無表情で目だけこちらに向けて立っている。

その後ろに見える布団では嫁が普通に寝ている。

え??今午前3時だよ?玄関の鍵も窓の鍵も閉めてるよ?なんで、どうして、どうやって…と思いながら思わず

「え…!、は…!、う!!」

と大きな声を出してしまった。その声で嫁が起きてしまった。身をよじってこちらを見ながら

「何よ…」

と布団から起き上がってきた。

「まだ映画観てるの?大きな声出して何時だと思ってるの?」

と言いながらこちらに近づいてくる。 その男に近づいた時

「なによ。どいてよ」

といいながら男の肩に手をかけ、ぐいと横に押すとそのままパソコンの部屋を経由してトイレに向かおうとした。

「おい!!」

あわてて声をかける。

「夜中にうるさいわね!!なによ、さっきから…」

「お前、お前、今、誰をどかしたんだ??」

「…え?」

2人で男の立っていた場所を同時に見たが、そこにはもう誰もいなかった。すぐに二人で部屋の窓を調べたが全部鍵はかかっていた。

駅から遠いだの近くにコンビニがないだのと、以前から部屋に不満が多かった嫁は、これを期に引っ越しを強硬に主張するようになり、次の年の更新はあきらめざるをえなかった。

自分としては気に入っていた住まいだったし、引っ越すまでの期間特に何が起きたわけでもなかったんだが。

あの男からすればただの通りがかりみたいなものだったのかもしれない。

個人的には今までで一番心拍数が上がった出来事だった。


引用元:http://toro.2ch.sc/test/read.cgi/occult/1425032451/