11/06/02
弟と先週、実家で会ったときに聞いた話。
私の弟は今年春まで、勤務先から電車で20分くらいの場所にあるアパートに住んでいたが、契約が切れるのを機会に引っ越すことにした。
元のアパートの家賃は場所の割に大変安く、なかなか同じ条件の物件はなかった。
弟が、不動産屋へ向かうため駅の反対側にある商店街へ向かって、ぶらついていると「空室あり」の張り紙があるアパートを見つけた。
駅から徒歩6~7分。3階建ての2階。張り紙を読むと元のアパートより1部屋多く、綺麗なのだが、家賃はほぼ一緒である。正直言ってその広さ、築年数でその家賃は場所的に破格であった。
連絡先には不動産屋の名前ではなく、個人名と連絡先が書いてあった。
電話を架けると自分が大家であるというので、早速会いに行ったという。大家の家はアパートから歩いて10分程のところにあった。
大家はかなり高齢の女性で、聞けばいつでも入居可能だという。ただ大家は一つだけ条件を付けた。
「女性を住まわせないこと」
というよりは「男女の同居」が不可なのだという。弟に彼女はいるが、一緒に住む予定はない。
弟が、遊びに来るくらいはいいんですか、と聞くと、それは構わないが住むのは絶対にダメだ、と念を押された。
その条件は他の部屋も同じのはずだ。夜中に子どもの泣き声なんかに悩まされることもないな、と思った。
その駅周辺の雰囲気自体が気に入ってたこともあり、弟は入居を決めたのだという。
ところが、引越してから気づいた。部屋の押入れを開けると、天板の隅に御札が貼ってあったのだ。真四角の、手のひらくらい小さな御札。判読不明の字が、円形に朱で書かれている。
内見のときには気付かなかったのだが、引越の後片付けをしていて、初めて気が付いたという。不気味ではあるが、剥す勇気もなくそのままにした。
そして引越しから1週間たった頃、夜の11時過ぎにチャイムが鳴った。
だれだろうとインターホンを取ると女性である。3階の住人だという。何か苦情か、と身構えて弟はドアを開けた。
「あの、夜分すいません。3階の〇〇といいますが、ちょっとお尋ねしていいですか?」
その女性を見るのは始めてだったが、見ると夜目にも顔が青い。いや蒼白である。何かにおびえているのか、おどおどしてるっていうかそんな感じだった、という。
「何でしょうか」
「突然、こんな時間に失礼なお話なんですけど、お一人で住んでいるんですよね?」
「えっ?そうですけど」
「女性は住んでいませんよね」
「そうですけど、なんなんですか?」
あまりに唐突である。第一、初対面の人間に聞く話ではない。時間も時間ですこしムッとした。たぶん表情に出たのだろう、女性は
「あ、すいません。ゴメンなさい」
といって部屋へと戻っていった。その時、女性が小さく「隣かぁ」とつぶやいたのが聞こえたという。
それから何週間かしたある日、隣の部屋が突然、引越し、空室になった。
隣には女性が住んでいたのだが、たまに来る程度だった彼氏らしき男性を毎日、朝に見かけるようになった直後のことだったという。
隣が引越をした翌日、ごみ捨て場には、隣の部屋から出たと思われる大量のゴミが置いてある。
ふと、目をやって息を呑んだ。
大量の御札であった。それはコンビニの袋に入れて捨てられていた。ところが、そんな詰め込まれているように見えない袋が裂けて御札がにゅっ、と飛び出している。
弟は、怖くなってよくは見ていないが、その全てが二つに破かれていたと思う、と言った。
弟自身の部屋に何かが起こったわけではなく、隣と、階上の部屋に何が起こったのかは分からないという。
ただその後、休日などに、尋ねてきた3階の女性を見かけることはあるが、その顔は、夜に尋ねてきた人間と同一人物だとは思えないほど血色のいい元気そうな顔なんだ、と弟は話した。
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大家としては店子が頭おかしいから、とは言えず、同棲しない?泊まらせない?という契約をするしか、他の店子を守る術が思いつかなかったんだろうな。
最近のホラーは心霊より「生きてる人間のほうが怖い」系ばかり
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