草
10/07/09
オレが小学校低学年の頃の話。

うちの近所に怪しいばあちゃんが住んでいた。

そのばあちゃんは、とある信仰宗教団体の地域リーダーみたいな立場だったらしく、しょっちゅう人を集めては夜通しお経をとなえたり、絶叫したり、その宗教が発行している本の購入をしつこく勧めてくるので、近所でも、ちょっとした嫌われ者だった。

あるとき、うちに近所のオヤジ連中が集まってきて、なにやら話し合いをしていた。

どうやら、その怪しいばーちゃんの話題らしく、「警察に通報する」とか「今度抗議をしに行こう」とか、穏やかではない雰囲気だ。あとから、オヤジに

「何の話してたの?あのばーちゃん何か悪いことしたの?」

って聞いたら、

「あのおばーちゃんの勝手口の横に生えている草あるだろう?あれはおばーちゃんにとっては神様のにささげる大事な植物らしいんだけど、触ると手が荒れる草だから、植えないようにお願いしに行くんだよ。

この辺は、子供がよく遊ぶ場所だから、何かあったら大変だろ。お前もあの草は触っちゃダメだからな。手が大きく腫れちまうぞ」

ということだった。

その頃は「たかが草植えたくらいで、なんだかばーちゃんかわいそう」と思ってたが、大人の世界は色々あるんだなと、子供ながらに納得して特に何も気にしていなかった。

すぐにその草はなくなり、オヤジもそれ以降そのことは触れなかったし、ばーちゃんも普通に生活していたので、何も気にすることなく年月が過ぎ去った。

やがてばーちゃんも亡くなり、俺も社会人になって、久々に帰郷した際に、ふと思い出して、

「そういえばあのときの草ってなんて植物だったの?」

とオヤジに聞いてみた。すると、オヤジは、こう言い放った。

「ああ、あれは大麻とトリカブトだよ。警察に通報しようと思ったけど、あの会合以降近所に怪しい人がうろついたり、いたずら電話がかかってくるようになったから、通報やめようということになった。

結局、ばーちゃんみずから草を捨てたらしい。あの件はあまり触れないほうがいいな。」

その二年後、地下鉄霞ヶ関駅で猛毒ガス大量殺人事件が発生した。