不気味

12/02/15
大学病院に勤めていたインターン時代、一度だけ仕事中に腰を抜かしたことがある。 
深夜、凍死したホームレスの解剖を手伝った時のことだ。 
凍ったままでは解剖できないから、私は遺体にお湯をかけ、15分ばかりマッサージに専念した。 
すると、遺体が「ゲフッ」とゲップしたのだ。 

マッサージで肺が刺激されたためで、これだけならそう珍しいことではない。 
だが、遺体の右腕がすうっと5センチばかり持ち上がったのには驚いた。 
温まって硬直が解け、腕が下がるのなら分かるが、上がるというのは理論的にあり得ない。 
ドクターに報告すると、「筋反射だろう」という。 

そんなこともあるのかと疑問に思いつつ、解剖に入った。  
胴体の正中線を切り、内臓をすべて抜き取り、首から下が空っぽのズタ袋のようになった時点で、 
それは起こった。遺体が喉のあたりから「あ”ー」というような音を発したのだ。 
ギョッと立ちすくむ私に、ドクターは「ガス、ガス!(ガスが声帯を揺らした)」と言い捨てたが、 
その彼の声も心なしか震えていた。 

そして極めつけは、頭蓋をノコで切断し、脳をそっと取り出していた時。 
遺体は、今度はハッキリ、唇から「いや”あ”」という声を漏らしたのだ! 
これはもう、医学的に絶対説明つかない。ガスが発生する要素はすでになく、 
声を発する気管も食道ごと抜いているのだから。 
私は黙って廊下に出て、へたり込んでしまった。 
妙な経験といったらこれぐらいだが、 
あれは何だったのだろうと、今でも不思議に思う。


引用元:http://toro.2ch.net/test/read.cgi/occult/1327562665/