
4歳か5歳か、小学校に上がる前の、夏の終わりの話。
私は田舎にある母方の祖父母の家で昼寝をしていた。喉が渇いて目が覚めて、違和感を覚えた。何回も遊びに来ている家だけど、何かが違う。
部屋にあったはずのおばあちゃんのベッドがなぜか仏間にあるし、ただの壁だった縁側の突き当たりに謎の扉があるし。
広い家の中で私を一人ぼっちにして、おばあちゃんはどこかへ出かけたようだった。
セミの声もしないし、おじいちゃんが大事にしていた小鳥も小魚もいなくて、昼寝前にいとこと遊んでいた客間には、見慣れないティーセットが何組も飾られた、ガラス張りの食器棚が出現していた。
今まで寝ていたお座敷に戻ってみると、さっきまであったタオルケットがなくなっている。
ここで半ベソ状態だったんだけど、玄関の引き戸をトントンと叩く音がしたから、おじいちゃんが早く帰ってきた!と思って、涙も引っ込んだ私は廊下に出た。
(おじいちゃんはいつも帰ってくると引き戸を軽く叩いて、おばあちゃんを呼んで戸を開けてもらって家に上がってきていた。田舎だから鍵はかってなかったけど、おばあちゃんに開けてもらうのがおじいちゃんのマイルールだった)
引き戸はすりガラスで、人の影が立っているのが見えた。その人影は頭部が異様に大きくて、首から下は妙にひょろひょろと細長かった。
そのシルエットにビビった私はお座敷に戻ってふすまを閉めて、仏壇の座布団の下に頭を突っ込んで震えていた。
いつの間にか寝ていたようで、「おつかいありさん」という童謡を歌うおばあちゃんの大声で起きた。
歌うことも珍しいおばあちゃんが大声で歌っているのにもびっくりしたけど、なくなったタオルケットが体にかかっていて、仏壇のあるお座敷の奥ではなく、縁側に寝ていたのにも驚いた。
おばあちゃんがアイスをくれるというので起きあがった私は、縁側の突き当たりに扉を見つけてしまって大泣きした。
おばあちゃんは
「ママは結婚式で遠くへ行っちゃったのよ」
「〇〇ちゃんはお留守番できるって言ってたじゃない」
となだめようとしたけどそうじゃない。
客間へ走っていったらやっぱり食器棚があって、私は食堂のテーブルの下にもぐってわあわあ泣き続けた。おばあちゃんは根気よく私をなだめてアイスを食べさせてくれた。
夜になって、玄関から「トントン」と音がした。おばあちゃんと一緒に廊下へ出ると、あの頭部の大きいひょろひょろの人影が2つうごめいていた。
彼らは直立しているのではなく、手足を妙にぐにゃぐにゃと遊ばせていて、不気味さが増していた。私は再び食堂のテーブルに潜り込んだけれど、引き戸を開ける音がした。
おばあちゃんに
「〇〇ちゃん、お迎えが来たよ」
「おじいちゃんとお父さんだよ」
と呼ばれ、私は仕方なく玄関に行った。
異様に大きい頭部は人間の顔ではなく、両目とも黒目が描き込まれたダルマに似たものだった。2人とも夏だというのに真っ白い長そで長ズボンで、手足をぶらぶらぐにゃぐにゃと遊ばせていた。
怖すぎて声も出せず、食堂のテーブルの下で丸まって泣いていると、おばあちゃんが女の人を連れて戻ってきた。おばあちゃんが言うには、その女の人が
「〇〇ちゃんを迎えにきたママ」
で、女の人は
「結婚式に出ていて迎えに来るのが遅くなってごめんね」
と、私にあやまった。
母にとてもよく似た別人、というとはっきりしないけれど、うり二つの双子のような、なんとなく雰囲気が違う、そんな感じ。母は上に兄姉がいる末っ子で、双子ではない。
母を名乗る女の人に連れられて、当時住んでいた都市部のアパートに帰ったが、見覚えのない巨大な扇子(せんす)が部屋に飾られていたり、玄関の横に物置のような部屋
(「反省部屋」と呼ばれていて、母?に叱られた後に、夕ご飯までそこに閉じ込められることが何回かあった)が増えていた。
父親は記憶の通りの顔かたちでほっとした。
それからも祖父母の家に行くことが何度かあったので、現れた縁側の扉や客間の食器棚、消えた小鳥と小魚についておじいちゃんに聞いてみた。
現れたものは元からあって、消えたものは元からないことになっていた。
おじいちゃんは私が小鳥と小魚を欲しがっているのかと思ったようで、次に遊びにいった時には玄関に鳥かご、居間にアクアリウムがあった。
母?は「急に水そうとか鳥とか、お父さんどうしちゃったんだろう」と不思議がっていた。
私が高校を卒業する頃には祖父母とも亡くなってしまった。
私は県外の大学に進学したために2年前に家を出て、今は父、母?、妹の三人で暮らしている。今年の4月に母から電話がかかってきた。祖父母の家で遺品整理をしたという。
「いつの間にか客間にばかでかい食器棚増やして、使いもしないティーセット飾っちゃってさあ」
とぐちられてぞわっとした。
その日は適当に話を合わせて電話を切り、GWに帰省した。十数年見慣れた母?と現在の母の違いは、私にはもうあいまいになってしまったが、母?から生まれた妹には
「ママ、お姉ちゃんがいなくなってから違う人みたいになっちゃった」
と言われた。
「どういうふうに?」
と聞いたら
「なんとなく別人な気がする」
というはっきりしない答え。帰省する当日、母と二人でお昼ご飯を食べながら
「おじいちゃんちに小鳥と小魚いたけど、なんで飼い始めたんだろうね」
と何気ないふうをよそおって話を振ると、
「昔から、鳥とか魚とか、何がかわいいのかわかんないもの飼うの好きな人だったからねえ。実家にいた頃はママがお世話してて、ママの部屋だった離れを鳥屋敷にするくらいいっぱい飼ってたときもあったのよ」
と苦笑いしていた。
私の母は戻ってきたが、妹を産んだ母?はどこに行ったのだろう。父はこの異変に全く気づいていない。
コメント
コメント一覧
結局元の母親に戻ったってこと?
≫その人影は頭部が異様に大きくて、首から下は妙にひょろひょろと細長かった。
↑これは幽霊ではなく餓鬼ですね。餓鬼界を媒介にして並行世界へ跳躍してしまった姉。で、それを追いかけるように元の世界から移動してきた母が母?と入れ替わったという解釈はどうでしょう。シャーマンの家系ですかね。
わかりやすい伝承だと呼ぶ子・山び子のことね水木先生の
呼ばれたからそこに行くと案山子みたいのが立ってて体を乗っ取られるやつ
それで次に”中身”になる人が来るまではずっとそこで待ってなくちゃならない
山の気が時々おこす遊びみたいなもので、魂移しされてる人は意外と多い
カーチャンは20年かけてやっと戻れたわけだ
カーチャンの場合は山の気が凝ったものが擬似人格で入った生まれたての呼ぶ子だったから元の体に戻れたんだと思う
人の魂の入った呼ぶ子に魂移しされると中身が入れ替わったままその人として生きていかなきゃならないからね(ただしその人の記憶も受け継ぐので問題ない)
あとこの投稿者は気がついてないだけで自分も人魂の入った呼ぶ子に魂移しされてるよ
記憶の混乱が起きてるのはそのせい
それにしても何処なのかな祖父母の家があったのは
玄関のガラス戸越しに見えたヒョロヒョロも中身は呼ぶ子だろうからその地方はずいぶん呼ぶ子の多い地域だったんだろう
もっと話聞きたいくらいおもしろい話だ
あとどうしても糖質にしたいって場合は「家族否認妄想」に分類されるかもだけど、ただそれにしたって一回母が変わってからまた元に戻るってのは糖質が治癒しないとないだろうねw
他の記憶部分に関しても同じかと。
自然に治癒することはまず無いw
精神疾患も否定は出来ないけどそれだけで説明できる話でも無いね。
あとこの程度の文章もまともに理解できない方がやばいんじゃないかなw
一体どうした?
>>父親は記憶の通りの顔かたちでほっとした。
お父さんってのは誰なんだ? 誰のお父さん?
もしかしたらもう言われてるかもしれないけど
じいちゃんが鳥とか魚とか飼い始めた時のリアクションが母と母?で明らかに違う
母は昔からよく飼う人だったという反応だな
母?は急に飼い始めてどうしたんだ?と疑問に思ってる
病院へ行く事を薦める。
祖母にはじいさんと報告者父に見えたが、報告者にはダルマ頭の手足ヒョログニャのお化けに見えたし、報告者母は凄く似た別物に見えた。大声で歌うのも珍しいって事は、祖母も違うものだったかもね。⬅ダルマを家族だと言った
屋敷の間取りも違っていたみたいだし、オカルト的には昼寝中に不安定な平行世界を移動、神隠し的な事態を収束させる方法を知ってた祖母が歌で報告者を呼び戻したが、所々でズレが発生。しかし報告者が鳥と魚を屋敷に置かせた事でゆっくり正されていった・みたいな。
元に戻らない話って独特の寂しさがあって好きだなあ特に本人が受け入れちゃってるパターン
まあ当事者だけにはなりたくないが…
そんな感覚を持ってた自分からすると、報告者さんも何かそんな『家族が家族の役をやってる』的な思い込みみたいのがあったのかな?と...。それかお母さんが事故等で実際頭部に怪我をして記憶がすりかわって別人かくになってたとか...?不思議な話だね。
「母?がGWで元の母に戻った」ってはっきり書かれてないのでイミフって人が多いんだろうね
あとお祖父ちゃんお父さんがひょろ長い化け物になってた件はどうなったんだろう
嗜好もオカルトに傾倒しているようだし、読めなくて当たり前
当時5歳と6歳の子供をいつも通り保育園に預けてその日は仕事ではなく実家の法事に行き、
何時もの時間に迎えに行くと子供二人共なぜか私の顔を凝視している。
「私の顔に何かついてる?」そう聞いても二人共黙ったまま…
数日経ってから旦那に「お前子供に変な番組でも見せて怖がらせたのか?」とか聞いてくるので理由を聞くと
「二人共お前がママじゃないみたいだと言ってるぞ」との事…
この記事を読んで思い出したので聞いてみると上の子は「さぁ?」下の子は「シラネ」の返事。
こちらの場合、子供達の単なる気のせいだったんだと思う。
そんなの曖昧で当然
統合失調症とか、、本人の中では正解が、
本当は違う記憶になっていたりとか。
読みにくい文章も多分、そのせいかと。
読みにくいとか意味わかんないって言う人が多くて驚いてる。
起こった事は一通りわかるけどな。
もっと訳わかんない文の投稿いっぱいある。
そんなに難しくないよ。
小説をちょっと読むことがあるくらいの人なら余裕で理解できると思う。
あれ?自分は正常だと思ってるけどどうなんだろう?
って不安になる
こういう脳の病気って突然発症するもんなんかね
やだなぁ…今乳児がいるけど、もし泣いている理由がそうだったらこの子が可哀想だ。
私は変化ないのに、この子にとっては急に別人になっちゃうんだものね。
カプグラ症候群は知ってるけど、辛いね。
人間として心身が成長する段階で不安定になる時期があってもおかしくない。
だから小学校にはいる年齢もそのへんになっている。
3、4歳ってのは言語を身に着ける時期だから、世界との接し方もそれまでとは変わるもんだよ。
この話が真実かどうか、この主人公が感じたものが真実かどうかはこの際どうでもいい
ただただ情景が恐ろしくてどこか切ない
この手の子供の頃の絶大な恐怖は誰にも理解されないから余計に怖い。
文章がわかりにくいという人がいるが何故だろう。
2ちゃんのもっと読みにくい文章も理解できる人たちなのにな。何故だろう。
私は読解力が高いタイプではないが普通に読めたよ。
あと米4も面白いね。
もっと知りたい。
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