
夜8時ぐらいから釣りを始めて、夜11時ごろには家に帰って、釣果のイカを砂糖醤油で甘辛く焼いて食べるのだ。俺は親父とイカ釣りに行くのが大好きだった。
釣り場は近所の港にある、沖に向かって伸びる堤防だった。子供の体感的には長さ500mぐらいあったと思うが、今見たらもっと短いかもしれない。
堤防の途中には『進入禁止』と書かれたフェンスがあったけど、フェンスはちょうど堤防分の幅しかなかったから、横から簡単に越えられた。その先が俺らの釣り場だった。
夜まで起きていて良い&ほんとは入っちゃいけないところに入れる、という非日常感に、当時の俺はワクワクしてしょうがなかった。
親父は『お前を連れてくると良く釣れるんだ』と言って笑ってくれた。何の根拠もないけど、子供ながらに誇らしく嬉しいもんだった。
ある夜のこと。その日も親父に連れられてイカ釣りに向かった。軽トラで田舎の県道を20分ほど走って、いつものさびれた漁港に入っていった。
水銀灯のオレンジの光で港はぼうっと照らされていたけど、堤防の方向は明りもなく暗かった。
軽トラを駐車して、堤防に向かった。暗いけど、月明りでなんとなく周囲は見えた。堤防を進む間、波がパコパコと堤防の下を叩いて、フナムシがサワサワと散っていく。分かる人には分かるだろうか。たまんない非日常感である。
堤防には誰もいなかった。親父はイカ釣りに使うルアーを糸に付け、俺に竿を持たせキャスト(投げる)させてくれた。
俺はすぐに海底にルアーを引っかけるもんだから、俺の役割はキャストだけで、巻き取るのは親父だった。俺が投げ、親父が巻く。たまにイカがかかると俺に竿を持たせてくれる。そんな釣りをしていた。
そうこうしてイカが2匹釣れた頃、
「ラジオ忘れた。車からラジオ持ってくる」
親父が言い、海に落ちるから歩き回るなよと強く言いふくめられた。竿を預けられた俺は、任せろと言わんばかりの態度で親父を見送った。
しばらくたって、ぼけーっと寝っ転がって星空を見ていた俺は、視界にチラつく明りと足音に気付いた。親父かぁ~…?思ったより早いな~…と思いながら向き直ると、顔をライトで照らされた。
「……………釣れるの?」
冴えない風貌の若い男が2人立っていた。太った男とガリガリの男だった。
「……………2ひき釣れた」
「いいね、釣れてんだ。見せて。」
「凄い。大きいじゃん」
「うわ~~~凄い。」
「生きてる生きてる。」
何と言えばいいのだろう、妙に距離感が近い。二人とも妙に距離感を詰めてくる、俺が苦手なタイプだ。二人組はクーラーボックスに入ったイカをべたべた無遠慮に触ってわぁわぁ騒いでいた。
俺は、お前ら誰だよ触ってんじゃねえよと子供ながらに内心イラついていた。
ひとしきり騒いだ後、
「……で誰が釣ったの?」
太った男が聞いてきた時だった。
「どうも!!!」
妙に元気の良い答えが聞こえてきた。予想外なことに、声の主は親父だった。ラジオを持った笑顔の親父が二人組の後ろにいた。
「いやぁ、このイカ。元気良いんです。良かったらもらって下さい」
親父はきらきらの笑顔で二人組にイカを渡しにかかった。俺の親父ってこんなにハキハキしたタイプだったかな?
確かに営業職ではあったけど。
「まあまあ、おいしいですから、どうぞ。刺身もいいんですよね~」
「いや~悪いですよ~」「ねえ」と話す二人に、親父は白いビニール袋にイカを入れて持たせた。
「いいんですよ。あ、今、ホラ、ちょうど港に車が入って来たでしょう。あれ友人なんですけど。あいつからイカもらえることになってますんで、ホントどーぞどーぞ」
確かにちょうど港に入ってくるヘッドライトが見えた。
「そうですか」「じゃあ悪いけど」
二人組はイカの袋をぶら下げて、海に向かってタバコを吸いだした。
「ではこれで、いったん向こうに失礼しまっす!!!」
若造に愛想良く敬礼まで繰り出した親父は、釣り具をまとめ俺の手を引いて、港に向かって歩きだした。
ああ俺のイカが………砂糖醤油が……おやじぃ~……と異議を申し立てた表情をしてみたものの、親父はそっぽを向いていた。
フェンスを越え、港に戻ると、親父は入って来たその車に駆け寄り、運転手のオッサンと何事か話すと、その車はぐるっと引き返して港から出て行ってしまった。
イカもらうんじゃねーのかよ…おやじぃ~~……とブータレ顔の俺は親父にうながされ、軽トラに乗りこむと、俺たちも港から出てしまった。
おいっどういうつもりなんだぁーと聞こうとする俺に親父は謝りだした。
「すまん。本当にすまん。俺が甘かったんだ、俺が。もう釣りはやめような。もっと昼間に遊ぼう。ごめんなぁ、ごめんなぁ」
親父は目に涙を浮かべていた。さっきの笑顔との落差に俺は何も言えなくなってしまった。
親父が語ってくれた。
さっきの車のオッサンは偶然通りかかった他人で友人でも何でもないこと。オッサンには堤防に行かず帰るようにうながしたこと。
二人組は釣り道具を何も持っていなかったこと。太った男の方が黒いバットを持っていたこと。
それ以来、親父と釣りに行っていない。
コメント
コメント一覧
短時間とはいえ子供一人にしておけないし。何事もなくて良かったよ
昔はよく親に連れられて立入禁止区域に入って釣ってたな。
とはいえバット持ちの二人組はなんだろうね。
釣り客から強盗したところで高が知れてるだろうし、リンチでもしてたのかな。
お前ホントつらいって読むの好きだな!
日本人なら小学生だって正しく読めるわ!!
ご指摘ありがとうございます!
早急に手直ししました!
日本海側かな?
で、明らかおかしな奴らで
子供に何もなくて良かった…
刺激しないように愛想よくした俺…
てか夜に連れ出したり、色んな意味でごめん
みたい気持ちになったのかな?
子供を持つ親父の気持ちを考えると
ま、俺子供いないけど
DQNなら誰が釣ったかなんてどうでもいいし、イカ漁してるやつか?
この親子は港湾施設に不法侵入をした 立ち入り禁止区域が釣り可な訳がない
はっきり言ってこのクソ親子はモラルハザードを起こしている
誰がイカを釣り上げたのか聞いたのは犯行を確定させる為
慌てて親父が割って入りイカの放棄を提案した 親父はこの二人を知っていた可能性がある
子供連れでもあるのでそれで見逃してくれたのだろう 親父が子供を連れて来たのはその為
バットはこの二人の護身用だろう 違法な犯罪行為をする奴らが注意を受けた場合ほとんど
逆ギレを起こして注意してきた対象に攻撃的になる 中には攻撃する奴もいる
知らない車に話しかけたのは犯罪者同士の助け合い 今日見回り出てるのを教えただけ
二度と釣りに行かなかったのはやはり何らかの知り合いだった可能性がある
間接的にか直接的に警告を受けたのだろう
注意されたらキレる奴が居るので、バット持参で見回り。
親子は危なかったね
毎日楽しませてもらってます。
ただ、コメが荒れやすいな~。
ちなみに防波堤の下を波がパコパコ叩くってのは、防波堤ってのは波消しのために水面ギリくらいでTの字になってるのがあるんだ。そこに波が入り込むとパコパコパコパコ〜って鳴るんだよ。
自分もこのセンだと思った。新潟とかかな。父さん機転利く人だな。
生きてる人間コワイ…
管理人さん来てたのね。このサイトはサムネの画像も不気味で面白い話厳選してるのでよく
見させてもらってます。更新楽しみにしてます。
地元の海でも釣り客は平気で立入禁止区域入るわ、針や糸放ったらかすわ、その辺にゴミ捨てて行くわであいつらマナーもへったくれも無いカスばっかりだわ
人さらいじゃねーの
今おうちにお父さんかお母さんいる?って確認するアレだよアレ
北朝鮮云々の話に飛躍する前にまず
この馬鹿親子がマナー違反してんだから
そっちから連想するのが現実的だと思う
立入禁止の防波堤で夜釣りなんて、10年以上前にはどこでも普通に行われてたっつーのによ。
この親子を密漁だの何だのと叩いてる馬鹿の、歪んだ正義感の方が危険極まりないんだがな。
あと、※15。
モラルハザードの意味も知らずに、適当に専門用語使ってかっこつけてんじゃねぇぞ。
マスコミにも多いからなぁ、最近は。誤用が。
2~3日前のニュースで見たよ
どこだったかの防波堤で、年間?20数人検挙とか
ライフジャケットも対北朝鮮装備も無しなら、自己責任だよね
でも、やくざ関係のシマとかそういうことなのかな?
日本海側の山中をバイクで走ってたら変な人に通せんぼ食らって逃げたとか、家に子供しか居ないと押し入ろうとしてくる奴とか結構色んな雑誌で見た覚えがあった。
怖い話と全く関係ないバイク雑誌で見たりするから余計に怖い。
ただ単に危ないから立ち入り禁止って場合が多い。
特に防波堤の所は、波にさらわれ易いから、立ち入り禁止になっているだけ。
怪しい二人組は、ただの危険人物じゃないのか。
闇夜に紛れる黒いバット持ってるし。これって暗器だろ。奇襲するためのものだろ。
監視の人の、抑止力としてもつ装備なら目立つもの持つだろ。
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