採石場

15/06/29
母の話。

母が父のいる田舎に嫁いできたとき、母は「都会もん」(と言っても県庁所在地という程度で大した違いはない)と言われ、よく姑にいじめられたらしい。

いや姑に限らず、田舎者っていうのは一部の地域を覗いて大抵はよそ者を嫌うもので、嫁いだはずの母も例に漏れず、いつまでたってもよそ者扱いしかしてもらえなかったそうだ。

田舎のいじめってのは土俗的な因習・風習も絡むから壮絶なんだが、まぁそれはまた別の話。

で、母が嫁いでからわりとすぐ、家の近くで事故が起きた。砕石場(さいせきじょう)があって、作業員の男性がそれに頭から巻き込まれた。

彼は軽度の知的障害があったようで、やはり田舎ではいじめられていたらしい。

彼が、詰まったかなんかした砕石機の中を覗き込んだときに、その機械が作動したのだそうだ。

事故で機械が作動したのか、誰かの故意かはわからない。その場にいたもう一人の証言はあてにならない。けれど結局は事故として処理された。

母は事故現場にかなり近い場所にいたので、事故後の騒ぎですぐに駆けつけ、真っ赤に染まった砕石機にこびりついた肉片と、もう一人が必死にひっぱりだそうとしたというちぎれた片方の足首を見たそうだ。

あれ以上に凄惨(せいさん)な現場は見たことないと今でも語る。

それから母は毎晩その現場を夢に見たそうだ。ある時、夜中にトイレ(外にあった)へ行こうとすると、玄関にその死んだはずの男性が立っていたそうだ。

彼は母を見てニコニコ笑っていたそうだ。その姿は幽霊という気は全くせず、普通の生きた人間のようだったという。

もともといじめられている同士?ということもあり、母は当然彼に優しく接していたらしく、彼は母にはいつも笑っていたそうだ。

けれどさすがに死んだはずの彼が家の玄関に立っているのを見て、とてつもない恐怖を感じて凍りついた。悲鳴すら出なかったらしい。

彼は生前にそうしていたように、片方の肩をひょいひょいと上げる癖をしながらただ母を見ていた。結局彼は不思議そうにこちらを見ながらも普通に歩いて消えたそうで、しばらく母は動けなかった。

翌日になると昨晩のアレは夢に違いない、毎晩あの現場を思い出しているからだ、と思ったという。

けれど数日してまた彼は現れた。そして前回と同じくにこにこしながらも、ひょいひょい、と肩を上下にうごかした。それはしばらく続いたそうだ。その間、怖くて夜中はトイレに行けなかったとか。

で、なんで今この話を書いたかというと、さっきネットで「笑顔の霊は危険」というのを読んだからだ。もうすぐ連れていける、嬉しい!ということだとか。

単にいつもにこにこしてた人だから、という理由ならいいけど、そうじゃないならもしかして仲良くしてくれた母を連れに来てたんだろうかと思って寒気がした。

まぁ未だにそんな何十年も前のことにおびえてる母に言う気はないが。母はいまのとこまだ生きている。