静かな家

16/06/05
その日は結構久々に昔の知り合いから連絡があった。

高校生の時に仲良くなった一つ下の後輩なんだが、久しぶりに酒でも飲もうっていうんで家に遊びに来いって言うんだ。後輩の家には高校生の時にはよく遊びに行っていた。

後輩は地元に住んでて俺は他県に出てる。といっても隣県なんだが、親にも数年会っていなかったし次の休みにでも帰るか、と遊びに行くことを約束した。

久々に帰省して親に顔を見せて、ご飯作ってもらったりなんかした後、久々に後輩に会った。

後輩の家まわりは何だか静かで、ちょっと不気味に感じたのを覚えている。その時は些細な感覚で気にしなかったけど。

高校生の時に遊びに行った時には、おばちゃん達がしゃべってたりとか、子供が走り回ってたりとか、わりとひと気があったんだよな。まぁ普通の田舎だ。

後輩に「おー、なんか痩せたなお前」なんか言いつつ家にあがらせてもらった。家の中は綺麗に片付けてあるなって感じで普通。まぁ当たり前だけど。

家族の人は出掛けているらしく、後輩以外の人間がいる気配はなかった。後輩の部屋は模様替えをしていて綺麗になって、前の面影はほとんどなかった。

色々お互いのことを話して、ゲームして酒飲んでた。だいぶ話しつくしてすっかりくつろいだ時に、後輩がふっと切り出した。

「実はだいぶ前から近所から嫌がらせ受けてて」

えっ、と思って聞くと冗談ではなくてそれも思ったより程度がひどかったみたいだった。

最初は〇家という隣家の逆恨みから始まって、そこが近所中にないこと触れ回ったらしかった。特定されたくないから内容は伏せるが。

俺は後輩と後輩の家族が心配になって「どうするんだ」と後輩に言った。すると後輩は

「あ、今現在の話じゃなくて。もう終わった話なんだ。」

とゲーム片手にケロリとして言った。

「終わった話って...」

「〇〇さ、ここに来るまでの間に誰かに会った?」

「そういえば誰もいなかった。いつも×家のおじさんとかいるのに」

後輩はしばらく黙った後に全滅したと言った。ゲームの話ではなかった。

どういうことかとたずねると、後輩は立ち上がってちょっと来て、と言い部屋の外へ出て行く。

階段を降りて一階の倉庫になっている部屋に行った。そこも初めて入ったんだが、倉庫の奥にもう一つ木の扉がついていてそこを開けた。

そこは畳一畳だけの部屋で、奥の方にひなまつりで使うおひなさまの簡易バージョンみたいなのが、すすけて置いてあった。

ほとんどボロボロだし異様な雰囲気で、何でこんなもの置いてあるんだとぎょっとした。よく考えると後輩は一人っ子で、それも男だからおひなさまなんて。いやでも母親が?

何するんだ?と後輩にじゃっかん引きつつたずねると、〇〇はそれ以上この人形の近くに来ちゃいけないから、と忠告される。

「この人形古いだろ。でもずっとこの家にあったものってわけじゃないんだよ。多分俺が子供の頃にこの家に来たのかな。

こんなこと言うと馬鹿馬鹿しいんだけど昔、人を殺すようなまじないのために作られたそうなんだ。

本来ならまじないの後に燃やしたり何らかの処分をしないといけないものだったんだけど、これはそのまま残ってしまった。それも呪いは完成して成功した後にね。

強い呪いに色々なものが付着してしまってて手に負えなくなってしまったんだって。

ただ、いつも悪さをするわけじゃなくて、色々工夫がしてあるんだけど、まぁ条件が揃わないようにしておけば、この状況下なら大丈夫だったんだ。

〇家と、それから〇家のでっちあげの中傷を信じた近所中に、俺たち家族は毎日ひどいことを言われたりされたよ。俺の家族もだんだんまいっていった。

俺がまんできなくてさ、ここへ来てこの人形に手合わせて願ったんだ。」

後輩はそう話した。ずっと無表情で。

特に祖母には殺されるくらい怒られるんだろうと思っていたけど、結局誰にも何も言われなかった、と後輩は言った。

「外まったく静かだっただろ。どこの家もひと気がなくてさ。俺人形に何を願ったかわかるか?」

「やめてくれ。」

後輩も状況も、その時は全てが異様な雰囲気で俺は思わずそう言った。たちの悪い冗談だろ、と笑い飛ばせるような感じじゃ全くなかった。

その後は酒もそこそこにおいとましたよ。周りの家をよく注意して見たけど、やっぱり誰も住んでいないようだった。どこもかしこも。

あれから後輩に連絡しても繋がらない。行く気にもならない。