雷

16/03/04
穂高(ほたか)の奥穂と北穂の間の稜線(りょうせん)をやってた時に雷の直撃を食らったことがある。

知ってる人は知ってるだろうが、森林限界【樹木が森林となって生育分布できない限界線】以上の岩場では、雷は上から落ちて来るとは限らない。

真横から水平に岩壁に突き刺さってきたり、下手すると眼下の雲海から頭上の岩頭に飛び上がってくる事がある。

でだ、その時は稜線上は快晴で雨雲一つなく、雷注意報も出ていなかったんだが四点支持で岩場をトラバース中に、急にブーンと重低音がして髪が逆立った直後、30mほど先の突き出した岩に真横から雷が直撃するのが見えた。

岩に張り付いたまま一瞬意識が飛んだんだと思う、音はほとんど聞こえなかった。

雷はその一回だけで、どこから飛んできたのかよく分からんかったが、稲光りをまともに見てしまったので、視覚が戻るまでしばらく時間がかかった。

ようやく暗転した視野の中で光の残像が収束してくると、白い光が雷神像のように浮き出して見えた。日本画の琳派(りんぱ)とかの屏風(びょうぶえ)のアレだね。
参考画像 
Fujinraijin-tawaraya
引用元:https://ja.wikipedia.org/wiki/琳派
脳が過去の記臆を元にそういう幻覚を見せたのだと思うが、一般によく広まっているカミナリ様のイメージには、人間の脳の機能上の仕組に何か理由があるんじゃないかとか、ちょっとそんな事を考えてしまった。

そのあと何となく毒気を抜かれたような気分になって、大キレットを縦走せず北穂から涸沢(からさわ)に降りてしまったんだが、それで特に何かあったというわけではない。

しばらくまぶたの裏に雷神の残像が焼き付いて消えなかったのでよく覚えている。

おそらく俺が今までで一番怖かった出来事がこれ。


おまけ動画【落雷の瞬間】