早朝

02/01/30
あれは俺が小学校四年生でした。当時俺は朝刊の新聞配達をしていました。

その中の一軒に毎朝、玄関先をそうじしているお婆さんがいました。そのお婆さんは毎朝、俺が『お早よう御座います』と言うと『ご苦労さん』と言ってヤクルトを二本あるうちの一本くれました。

俺はいつしかそれが楽しみになっていました。

そんなある日、いつものようにお婆さんにあいさつすると返事がありません。いつもは笑顔であいさつしてくれるのに、振り向きもせずに黙って玄関先をそうじしているのです。

なんか変やなぁと思いながらその日は残りの配達をすませて帰りました。

そして次の日、お婆さんの所に到着してあいさつをすると、またしても返事もなくそうじをしています。

それにポストには昨日の朝刊と夕刊が入ったままです。その横のケースの上にはヤクルトが三本あります。俺は黙って飲む訳にもいかず…その日も帰りました。

翌日、お婆さんの姿はありませんでした。そして、その次の日も…そして2~3日たったのですが、相変わらずお婆さんの姿はありません。

そしてポストは新聞で一杯になったので玄関の扉の間から新聞を投函しました。そしてヤクルトも数が増えていました。旅行でも行ったんかなぁ、とたいして気にも止めずに、その日も帰りました。

そして、店に帰り新聞屋のオヤジにその話をすると

『あぁ、あの婆ちゃんヤクルトくれるやろ』

と言い、

『そー言えば、あの婆ちゃん一人暮らしやったはずやで。なんか心配やなぁ』

と言いました。
そして

『とりあえず一回警察に連絡してみるわ』

と言ってましたので、俺は家に帰り学校へいきました。そして次の日新聞屋に行き、配達に出ようとするとオヤジが

『〇〇君!あの婆さんの所はもう入れんでもいいよ』

って言われました。(なんでやろ?)と思いながら配達を終え、店に戻るとオヤジが

『あのなぁ~あの婆さん死んだんや。』

『今、警察の方で調べてるけど、死後一週間から十日はたっとるみたいやなぁ』

と言いました。
そして、

『配達に行く前に言たら恐がるやろから戻って来たら言うたろと思てたんや。まぁ、お前が姿を見た最後の二日間の婆さんは、お前に自分が死んでる事を教えたかったんやと思うでぇ』

と言われ、その瞬間は俺は意味が分からんかったんやけど意味が分かった時、新聞配達をやめたのはいうまでもありません。

あれから31年たった今でも、あの婆さんの姿は忘れられません。