七年前に勤めた会社が倒産し、就職難の中で運転手に転身したTに起きた事です。
最初は小さい2t車での仕事だったTも、運転手に転身して一年も経つと4t車に乗る様になり、
県内だけでなく県外にも足を延ばすようになった。
今から五年程前の雨の夜に、隣県から帰る為に県境の峠道を走っていたTは尿意を覚えて、
山頂の少し手前の広い所にトラックを停めて用を足した。
雨は小雨程度だが霧が出ているし、交通量も疎らな峠道にいつになく嫌な雰囲気を感じていたが、
用を足してスッキリしたTがトラックに戻ろうと振り向くと・・・・・
助手席側に人が立っているのに気がつき、一瞬身を固くする。
こんな真夜中に峠で人が?
恐る恐る観察するTに人影が振り向いた。
若い・・・二十代前半位の女性。
肩までくらいの髪も、どこかの会社の制服と思しき衣類も全部が雨で濡れている。
思わず声をかけようとしたTより先に女が言葉を発した。
「峠を降りた○○まで乗せて下さい」
小さく、か細く・・・
しかしはっきりと聞き取れる声だった。