
10/10/04
9年前のある日、釣りに出かけていた兄が顔を蒼白にして帰宅した。がたがた震えている兄に話を聞くと、
「怖い思いをした。〇〇ガマへは行くな。あかんぞあそこは、コワイモンがおる。」
と繰り返している。あたたかい紅茶を飲ませ、母と話を聞くとこうであった。
兄はこの時期いつも釣りに通っているリアス式の湾内にこの日も朝からでかけた。
自分たちは〇〇ガマといって、このガマというのは平家の落人が日々の生活のため塩田を切り開いた土地で、この地方にはいくつもそのような何々ガマという地名がある。
照葉樹林(しょうようじゅりん)に囲まれた湾内の水面は、鏡のように静かで湖のようにみえる。そのようなリアス式の入り組んだ小さな小さな湾のひとつが、自分たち家族が通い詰めた場所であった。
自分たちは〇〇ガマと呼んでいた。



